with interest in people

 

1982年6月1日発行号のレポートから

急成長する「持ち帰り用グルメ料理」

「ファースト・フード」は、1960年代及び70年代にアメリカで最も急な成長を遂げた産業の一つである。マクドナルドやバーガー・キング、ケンタッキー・フライドチキンを始め、イギリスからフライド・フィッシュのアーサー・トリーチャー、そして最近では、タコスなどのメキシコ料理や、シック・テリといった中華料理のファースト・フード版のような民族料理店も登場し、これらは最も保守的な地域にすら出現してきたのである。勿論、ホットドッグ・スタンドは到る所に存在している。

 このような限られたメニューのレストランは、せっかちなニューヨークで特に人気が出てきている。ニューヨーカーは、ゆっくりと座って食事を楽しみたい時は高級レストランに行き、喜んで相応の金額を払う。しかし時間がない時は速く食べたがる。そこで立食式の店へ行き、たった30秒前に注文したものがまだ来ないと騒々しく文句が聞こえてくる混雑したカウンターで食べるのである。

 ファースト・フードは様々なかたちで利用されている。人によっては持ち帰り用に注文し、家で食べる。アメリカの小売りに関する統計によると、1977年の食べ物屋の消費額544億ドルの17%がこの持ち帰りによるものである。そして突如としてこの割合は急激な増加を示しているのである。

 その理由の一つには、一日を忙しく働いた人たちが、ファースト・フード店で夕食をしたがらないということもある。かと言って一週間に何度も高いレストランに行きたくもない。家でくつろいで食事をしたいのだ。しかしながらそれにもまして、多くの人たちはファースト・フード店の限られた種類の食べ物に飽きてしまった。彼らは家で食事をしたいし、またおいしい物を食べたいのである。

 しかし、彼らは自分自身でそれを作る時間もエネルギーも持っていない。独身者は男女に限らず、仕事と家事の両方のために時間をやりくりしなければならない。かつて既婚者は、夫は勤め、妻は家事と役割分担をしていたが、今日アメリカでは、妻の51%が職を持っているように、仕事につく妻の数が増える傾向にあり、この数は1990年までに60%になると予想される。恐らく、この数字は、都市においてはずっと高いと思われる。そこで、料理に費やす時間は最少限となる。では、これらの人々は一体何を夕食に食べるのであろうか。それは持ち帰り食品である。毎晩ではないにしろ、もっともっと頻繁に。しかし以前のように、会社の帰り道にピザを買って帰るのとは違う。ここ数年、ニューヨークで最も急成長を遂げた産業は持ち帰り用グルメ料理店である。店に立ち寄り、好きな物を、例えば鶏肉と野菜のキャセロール、作りたてのパスタ、好みのソース、焼きたてでアツアツの蛤など。それらを自分ないしは家族に必要な量だけ買えばよい。そして家へ持ち帰り、暖める必要のあるものは軽く暖め、食卓を整え、もし時間さえあったなら自分で作れたであろうものと全く相違がない程の美味な食事を用意するのである。

 このような家庭料理の味は、様々な興味深いどころで買い求めることができる。スーパーマーケットには従来からデリカテッセンのコーナーがあり、サンドウィッチの材料である冷肉のスライスやチーズ、パンなどを売っていた。今や多くのスーパーではこうした部門を拡張し、ローストビーフやハム、パーベキュー・チキン、スペア・リブその他の特別料理を含めるようになった。これは、仕事を終え、食料雑貨の買い物を済ませた人が家へ帰る頃には疲れはて、タ食を作る気力もなくなるであろう、という考えから出てきたものである。そこで、これらスーパーマーケットでは、家庭で簡単に暖め直すだけでよい、既に料理されたものを売っている。

 高級レストランもこうした動きに加わりつつある。持ち帰り用料理を売る店はどんどん増えており、フルコースの料理を注文主のアパートまで出前するという店も多くなっている。(出前料はかなり取られるかもしれないが、それは殆ど仕出し屋の手によるディナーに近いものである。)アメリカン・エキスプレス社は、マンハッタンの裕福な人の住むアッパー・イースト・サイドでこのやり方を試みている。「クイジーン・エキスプレス」と呼ばれるこの会社の新しいプログラムは、カード所有者のために八軒のレストランのメニューを用意し、電話で注文を受け、料理を届けている。主なコースの料金は、料理ひとつにつき6ドルから13ドルである。

 そしてついに、特にこの種の需要に応えて特製の料理を売る店が膨大な数になってきた。多くの店は清潔で、小じんまりと美しく設計されており、店内には楽しくなるような食べ物を入れたガラス容器が並び、ガラスのカウンターの中には、焼きたてのパンやマフィンやケーキ、肉や、野菜味にほうれん草を使ったパテ、またはキャセロールやキッシュ。さらに、歯ごたえのあるパンの中に意外なほど肉と野菜がぎっしりと詰まった、それ自体で立派な食事となる手で持って食べられるもの。「マンジア」(56丁目の5番街と6番街の間)はこれら持ち帰り式の店のなかでも大変に良い店の一つである。「ザ・ナチュラル・ソース」(コロンバス通りと72丁目の角)や「ザ・シルバー・パラット」(コロンバス通り72丁目と73丁目の間)も良い。そして毎月、新しい店が何軒かオープンしているようである。「ザ・口―ズデール・フィッシュ・マーケット」(レキシントン通りと79丁目)を例にとると、以前はただの魚屋であったのが、新しい部門として、スープとサラダとアントレ専門の店をここ1年ほど前から開いている。今では、この料理されたものの需要が余りに伸びたため、店を拡大している。4月には、新しい店「ニューマン・アンド・ポグドノフ」(3番街と79丁目)をオープンする予定で、仕出しと調理された料理専門店となる。

 勿論、何年も前からグルメ料理を販売してきている店もある。なかでもブルーミングデールとゼイバーズは有名である。今春、ブルーミングデールのデリカシーズ売場は大規模な拡張工事を行っている。作業は6ヶ月前に着手したが、ブルーミングデールは、商売、特にクリスマス期のかき入れ時を失わないように、工事は段階的に区切って行われた。そのため古い壁が取り払われたり、新しい壁が立てられるたびに売場は移動を重ねた。これが完成すると、食料品の売場面積は75%も増えることになる。

 変わったのは単に外形だけではない。パン、ケーキ、ペーストリー、さらには「フェイマス・エイモス」のクッキーまでもが、初めてプルーミングデール内のキッチンで焼かれるようになった。また、外側がパリッとしたパンを焼くために、煉瓦を積んだ電気式のオーブンも設置された。ここで売られるパンやクッキーの類の殆どは引き続き外部から供給されるであろうが、店内で調理する方向への確かな移行が進んでいる。

 新しい二つの店が、ブルーミングデールのデリカシーズ売場に、かなりの新しいビジネスをもたらすことが予想されている。一つは、「ミッシェル・ゲラール・ショップ」で、持ち帰り用フランス・グルメ専門で、すべてをここで整えることができる。ゲラール氏はフランスの偉大なるシェフの一人で、三つ星の評価を受け、パリにも同様の店を出している。ニューヨークの店は、彼のスタッフの一人であるシェフが管理しているが、ゲラール氏自身も年に数回はニューヨーク店に来て監督することになっている。

 ブルーミングデールで新しく昨夏オープンした「ペトロシャン・キャビァ・ショップ」では、キャビアと薫製の魚だけでなく、生のフォアグラも売っている。また、以前からある「マルセラ・ヘイザン」の売場も新しく拡張された。実際のところ、この店がブルーミングデールに店のなかで料理をするということを試みさせた最初の店なのである。「マルセラ・ヘイザン」のできたてイタリア料理は、1979年秋に登場し、大変な成功を収めた。この店の料理だけでなく「ミッシェル・ゲラール・ショップ」、その他デリカシーズの各売場の料理は、すべてブルーミングデールに増設された10階にあるキッチンで作られ、デリカシーズの売場へと常時運び降ろされることになる。

 「ゼイバーズ・グルメ・フード」は、マンハッタンのアッパー・ウエスト・サイドのブロードウェイと80丁目にあり、週末にはここのおいしい料理やお菓子を求める買物客が押し寄せ、世界一混み合う場所の一つとなっている。この店はこのわずか4ヶ月の間に、すぐ隣に2号店を、さらには垂直に拡張して新しく2階をも造った。2階は面積約8千平方フィートで、殆ど台所用品で構成されている。もし商売がこのまま今のようにうまくいけば、将来は上へ上へと拡張していくかもしれない。

 これらの、まるで「突風」のような新しいビジネスはいくつかの事実を教えてくれている。まず、ニューヨーカーは食べることに熱心であり、それもすばらしくおいしい物を食べることにさらに強い関心を持ってきているということ。また、彼らはありとあらゆるタイプのレストランを好みながら、一方では自宅での食事も楽しんでいる。従って、自分で本格的な料理をする時間がない時、彼らはいかに自宅で、今までのような騒ぎや面倒なしにごちそうを食べるかの方法を見つけ出しつつあるのである。帰宅途中、近くのデリカシーの店に立ち寄り、何か持ち帰り用グルメ料理を買ってきさえすればよいのである。




株式会社ツタガアワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ