ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
1.23.2006
「現代版ソーダファウンテン」

1960年代の末くらいまでであったろうか、アメリカのバラエティストアや、ちょっとした規模のドラッグストアには、店内の一画に、飲み物やアイスクリーム、軽食を提供する、低いカウンターに据え付け型の椅子を配したソーダファウンテンがあったものだ。これは子供にとって、母親に連れられて買い物に出かける際の最大の楽しみになったものである。しかし、バラエティストアなる基本業態(5&10セント・ストアと呼ばれた、2プライスの低価格何でも屋)が消滅し、ドラッグストアは効率を追求するなかで、ソーダファウンテンは古き良き時代の記憶の中のものになってしまった。ちなみに、東京・数寄屋橋のソニービルに誕生した当時のソニープラザにはこのソーダファウンテンがあり、「アメリカっぽい」スポットになったものである。

1990年代に入ると、この姿を消したはずのソーダファウンテンが、店に「過ごす」価値を創出し、これによって来店頻度を上げ、購買点数を上げるという店作りの戦略的意図と結びつくなかで復活する。その先駆けとなったのが書店チェーンのバーンズ&ノーブルである。1993年、ここは「過ごせる」書店を目指し、店作り施策のひとつとして、店内にスターバックスを導入したのである。来店客はここで、買う買わないに関わらず店内の本を自由に持ち込んでコーヒーを飲みながら吟味できる。オープンスタイルで店内環境に溶け込む形で設けられたこのカフェは、今やバーンズ&ノーブルを特色づけるものになっており、それは「現代版ソーダファウンテン」と言えるのである。

「現代版ソーダファウンテン」の最新の事例で興味深いのが、NY名物とも言える巨大オモチャ店、FAOシュオーツ(FAO Schwarz)である。それぞれにMD上の切り口を持った、実に多種多様なショップの集積体であるこの店は、「オモチャのディズニーランド」と呼ばれてきているように、店を超えて、オモチャを主語にしたアミューズメントパークとしての楽しさに満ちている。それがNY名物と言われるゆえんでもあるのだが、この店は大がかりなリモデルを行い、それに伴って新たに設けた装置がカフェなのである。

写真右奥に見えるのがカフェ。

メインフロアにあたかもひとつの売場のような佇まいで設けられた「FAOシュウィーツ(FAO Schweetz)」(シュオーツとスウィーツを引っ掛けている)と名付けられたこのカフェは、メニューをスウィートな食べ物、飲み物に絞るものである。そして、アイスクリーム、キャンディー、フロート系の飲み物など、どれをとっても味覚のレベルは高く、明らかに親の満足を意識したものになっている。親子連れを誘惑するには親を「行きたい」という気持ちにさせねばならないが、その点を押さえたこの装置は、来店客を楽しませ、過ごさせるうえでのさらなる魅力になっている。

一口に店内にカフェを設けると言うが、オープンスタイルで店内環境に溶け込む形で設けるソーダファウンテン的手法の効用にも目を向けてみたい。





 

株式会社ツタガワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ