ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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3.1.2006
メンズスーツの人気ブランド、「ドナルド・トランプ」

ドナルド・トランプと言えば、複合ビルの開発やホテル、カジノの経営でよく知られるアメリカの不動産王と呼ばれる人物である。人によって好き嫌いははっきりと分かれるだろうが、マンハッタンの五番街、57丁目交差点近くの超一等地にきらびやかに聳え立つトランプタワーはその代表的な物件で、誕生した1983年当時から数多くのセレブリティが住んでいることでも話題になってきた。トランプは80年代末のバブル崩壊に伴う不動産ブームの終焉で苦境に立たされるのだが、そこから不死身の復活を遂げる。そういった浮沈がありながら、ビジネスマンの立場で四半世紀もの間、表舞台で話題の人物であり続けるというのは過去に例がない。

近年、トランプをこれまでにも増して話題の人物にしたのがNBCテレビの番組「アプレンティス(The Apprentice)」である。自身がホスト役を務めるこの番組はリアリティ・テレビショウと性格づけられるもので、トランプ傘下の企業の役員の椅子をかけて一般から公募した人物が参加するというもの。こうした「奉公人」(番組名の意味でもある)をトランプが「キミはクビだ」のセリフで斬るところが見所になり、番組と共にトランプ自身も凄まじい人気になったのである。

メーシーでのウインドウでの訴求。

この人気に着目したのがマークラフトなるアパレルで、2004年、ここではずばり「ドナルド・トランプ(Donald J. Trump)」のブランドでメンズスーツを企画したのである。そしてこれを大々的に打ち出したのが、全米最大の百貨店小売企業、フェデレーテッド・デパートメントストアーズが展開するメーシーである。スーツ、タイ、ドレスシャツで構成するコレクションは瞬時に予想をはるかに超える成功を収め、わずか一年で、価値あるファッションブランドということで、ラルフ・ローレンやシャネルと並ぶトップグループのひとつに数えられるほどになったのである。ちなみにスタイルはブリティッシュの流れを汲む洗練されたもので、年齢を問わず着やすく、それでいて価格はスーツが500ドルと買いやすい。

当然のことだが、自分自身のブランドを訴求する広告にトランプはモデルとして当のスーツを着て登場している。しかし、日常のビジネスシーンで彼が着用しているのは高級イタリアブランドである。勿論、デザインに関与しているわけでもない。トランプとこのブランドの関係はあくまで名前だけのことなのである。でありながらトップブランドになり、多くの信奉者を持つというのは、ファッション・マーケティングにおいて過去に例のない話である。そうしてみると、これは実に興味深い事例なのである。





 

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