ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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4.1.2006
日本の伝承的カードゲーム、かるたがホット

幼児の知育や創造性を育むことへの関心が高まり続け、それに応えるモノ、コトには進んで、喜んで金を払う時代である。それを『躾の外注』と見ることもできるし、少子化の持つ一面と見ることもできる。そんななか、幼児を持つ親の注目を集めているモノがある。NHK教育TVの人気番組「にほんごであそぼ」から生まれた「にほんごであそぼ いろはかるた」である。これは「声に出して読みたい日本語」で知られる齋藤孝先生が監修した「かるた」で、番組中の「かるた」コーナーで扱うものをそのまま商品化したものである。

いや、世の中を注意深く観察してみると、幼児に限らず、かるたは大人の興味を刺激するものとしてホットになってきていることに気づく。ちなみに、日本でかるたとして最初に成立したのが百人一首で、遊びながら諺や教訓が覚えられる「いろはかるた」は19世紀中旬に誕生したものである。このように、かるたは日本の伝承的カードゲームと言えるのであり、そのなかには、古代から近現代まで日本史上重要な人物、事件を各100ずつ選んだ「日本史かるた」、生物の進化をたどった「進化のかるた」などがあり、その種類の多さに改めて驚かされる。同時に、これまた驚かされるのが、それらのかるたのほとんどが、創業大正10年の老舗、東京神保町の「奥野かるた店」のオリジナル商品ということだ。

奥野かるた店。

同店はかるたとカードゲームで100種類近いオリジナル商品を作っており、全国の大型書店に卸すほか、神保町の本店で一般にも販売している。そしてこの本店が知的好奇心をそそる、なかなかの人気店になっているのである。ここでは百人一首を含む様々なかるたを主役に、花札、双六、囲碁、将棋といった日本の伝統的な室内ゲームが展開されているのだが、なかでも見応えがあり、興味をそそるのがオリジナルの「いろはかるた」である。例えば「宮澤賢治 木版歌留多」(6,000円)。宮澤賢治の童話・詩歌など50作品を題材に絵札と字札計100枚で構成されるもので、温かみのある作風で知られる版画家・伊藤卓美氏による多色刷り木版画が魅力的である。このように、この店に一堂に集められたものを眺めていると、かるたには美術作品としての価値、詩歌の素晴らしさ、懐古的な持ち味など、様々な魅力があることに気づかされる。それにつけても、かるたというアイテムについて、アイテムキラーとしての力を持つ専門業態が成立し、しかも小さな博物館として存在感を発揮しているのは、小売業を考える視点からも注目に値することである。

生活者がかるたに興味を抱く背後にはいくつもの要因がある。美しい日本語に心を寄せる動き。消費の際に美的価値を大切にする動き。古くから伝わるものや伝承的知恵に敬意を表し、そのよさを現代に生かす動き。これは「ロハス的生きざま」のひとつであるが、それもまた、かるたに興味を抱く背後要因のひとつになっている。かるたと言えば唐突に聞こえるかもしれないが、実はいくつも時代感覚と結びついているのである。





 

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