ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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4.1.2006
ハレの日の食事は外食よりも弁当がいい

デパ地下ではこのところ年を追って花見弁当の訴求に力が入ってきている。2月の下旬頃から百貨店では「春祭り」をうたうプロモーションが開催されるが、そのなかで、桜をテーマに企画された様々な惣菜や菓子と並んで花見弁当が重要な出し物になる。今年は、西武百貨店池袋店が東京・新橋の高級割烹「京味」と共同で開発した、これまでの常識をはるかに超える、価格が1折8,925円のものを出すなど、いっそうの高級化が新たなトレンドになることを予感させる動きが出てきているのが注目される。また、伊勢丹新宿店が展開する、老舗料亭の吉兆による「シャブリと春のオードブル」セット(フランス産白ワインのシャブリと9種類のオードブル詰め合わせ。12,600円)のように、花見弁当が「宴の食事」という方向で広がりを見せているのも興味深い。

デパ地下での花見弁当の訴求。

花見弁当の多くは予約制で、各百貨店の店頭を観察していると、おせち料理に近い盛り上がりを感じる。いや、そのMDコンセプトはまさに『春版・花見版おせち料理』と言っていいのではないだろうか。このように花見弁当の企画と訴求に力が入る背後にはいくつもの要因がある。その最も大きな包括的要因として見逃せないのが、日本の季節の自然を愛でるという潮流。これは日本の美に心寄せるという重要な潮流とも密接に結びつき、春の桜や秋の紅葉に『自然のテーマパーク』を歩く価値をもたらしている。そのことが直接的に花見に持参する弁当としての需要をもたらしている。実際、百貨店によっては予約した花見弁当を花見の場所まで届けるサービスを提供する例も見られる。

こうした花見との直接的結びつきもあるが、花見弁当購買の基本的背後要因になっているのが、ひとつが歳時や季節の折々を家庭で祭りの心で楽しむことであり、いまひとつが友人などを招いて家庭でもてなす、家庭を舞台にしたカジュアルな社交が日常化してきていることである。桜は季節の折々を楽しむことに相当するものであり、祭りの心で楽しむ、家庭を舞台にした集まりといった「ハレ」のシーンを促進する大きな動機づけになる。そしてそんなハレのシーンには「ハレの弁当」がふさわしい。それは普段の食卓に調達する「ケの弁当」とは異なり、気持ちを高揚させてくれるものでなければならない。花見弁当はこれに応えるものであり、従って内容的にも価格的にも贅を感じさせるものがいい。

花見弁当から読み取りたいのは、歳時や季節の折々と連動する「ハレの弁当」というコンセプトである。それが掘り起こせる需要には母の日もあれば父の日もあり、年間を通してみればいくつもの企画のタイミングが考えられる。ハレの日の食事と言えば外食という選択肢もあるのだが、弁当もまた見逃せない選択肢になってきている。特に子供が独立した熟年生活者においてはそうである。「ハレの弁当」はそういった層に豊かさを実感させるものにもなっているのである。





 

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