ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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7.11.2006
「かわいい」サイズに惹かれる〜大人を刺激する小振りなサイズ、キッズサイズ

美的価値の高さと洗練度の高さを感じさせる品揃えで人気のホームファーニシングブティック、イデーショップにちょっと気になる商品がある。小振りの一人用ソファである。その大きさからして子供用のものかと思われるのだが、それは少々早とちりのようであるし、また、どこにも子供用という表示はない。この商品の名称は「ミニミラーアームチェア」(幅60cm×高さ55cm・座面30cm×奥行き67cm。71,400円)。英国のマシュー・ヒルトンのデザインによるもので、1992年に発表以来、イデーでもロングセラーを続けている「ミラーソファ」のミニモデルである。ちなみにヒルトンのデザインは曲線の優美さとモダンなシンプリシティが融合するところに特色があり、ミラーソファはその代表と言えるものである。

イデーショップが展開する「ミニミラーアームチェア」。

この「ミニミラーアームチェア」は子供用を意図したものではない。ただ小さなサイズのものを作ったということであって、身体の大きな人以外なら、大人の男性も女性も、そして勿論、子供も使用できる。ヒルトンならではの曲線の美しさが際立ち、紫、グリーン、ベージュ、赤の4色揃った色使いもヴィヴィッドで、さらにミニモデルというところが、「かわいいもの好き」の大人女性の興味をそそる。実際にこのチェアは一人暮らしの女性に人気があり、ワンルームマンションのような狭い、容量のない空間によく馴染む。これまでのソファに抱く常識を超えた企画だが、かわいらしさの魅力と実質的な使用価値との融合ということで、特に日本市場では売れる可能性を秘めていることを直感する。

ところで、ここ数年の注目すべき動きのひとつに、有名デザイナーによるキッズファニチャーの発表が活発になっていることがある。ミッドセンチュリーモダンのワイヤーチェアで知られるハリー・ベルトイアのもの、天然素材を生かした名品であるハンス・J・ウェグナーのチェア、デンマークの建築家ヤコブセンによる「セブンチェア」(スティールパイプの脚で、軽く、強度に優れ、積み重ねができるスタッキングチェア)の4分の3モデルといったぐあいに。これらが子供と共に暮らすリビングシーンにも美的配慮を怠らない生活者の心をとらえていることは言うまでもないが、その一方で、「かわいいもの好きの大人」の心を刺激する存在になっていることを見逃せない。キッズサイズであるがゆえにかわいい、子供の感性に働きかける色、形であるがゆえにかわいい。そこには、大人の女性がキッズサイズのTシャツやジーンズを「かわいいから」と着るのと共通した気持ちがある。

大人も使える小さなサイズのものがかわいい。そんな着眼点を持ってみると、子供用とされている様々なモノのなかに新たな訴求力を持つモノを発見することができる時代である。子供物という境界を取り払うこと。それは「かわいい」という美意識が根付くなかで持っておきたい商品企画やMD企画の視点である。





 

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