ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
9.1.2006
フィンガーサイズが遊び心を誘い、食欲をそそる

「10円まんじゅう」が人気になり、この1年の間にこれを売る和菓子店が全国に広がっている。これはいずれも直径5百円玉ほどの黒糖饅頭で、いわゆる温泉饅頭をサイズダウンした感じのものである。一口で食べられる大きさと、ひとつあたり10円という、理屈抜きに「安い!」と感動させる価格で評判となり、店はいずれも人通りの少ない裏道にありながら、いつも行列ができるほどの賑わいになっている。そんな人気店のひとつが日暮里にある「江戸うさぎ」で、出来立てのあつあつを提供するのが人気のポイントになっている。ちなみに、まんじゅう自体は10円だが、箱、包装代は別。従って、8個入り105円、18個入り210円、27個入り315円、36個入り420円、48個入り525円となっている。

「江戸うさぎ」と「10円まんじゅう」。

このところ、指でつまむ感覚の、ミニサイズのスウィーツが人気になっており、そのひとつに「シーブリーム」の店名で展開されている「ちびたいやき」がある。この鯛焼き、大きさは5cmで、十勝小豆餡、カスタード、チョコ、ミックスの4種類があり、1個40円。ブルーのシャレた箱に入れてくれるので、自家消費にとどまらず手土産としても購買意欲を刺激する。この「シーブリーム」は1週間から2週間の期間限定で全国の百貨店に出店し続け、人気を持続している。

フィンガースウィーツに共通しているのはミニサイズであるがゆえに安いことである。特に「10円まんじゅう」などは衝撃的で、そのことが話題となり、その話題を追体験するために遠方からも客が訪れ、行列のできる賑わいになる。確かに想像を超えた、過去の体験にない絶対的な安さは購買意欲を刺激する要因のひとつになる。しかし、安いという実感は次第に薄れ行くものであり、生活者はやがてそれに麻痺してしまい、店から足は遠のく。そこで重要になるのが、継続的に来店させる仕掛けである。例えば、季節限定商品の投入など、変化する味覚の創造によって次にどんなものが出るのかといった期待を抱かせ、常時店に足を運びたくなる気持ちにさせるといったように。このことはやがて「10円まんじゅう」にも問われることになろう。このように、特に単価の低いフィンガースウィーツについては、来店頻度、購買頻度を持続的に向上させるMD上の知恵が繁盛持続への重要な鍵になることを忘れてはならない。

さて、ミニサイズであることは、安さもさることながら、様相のうえで好奇心を刺激する効果も生み出す。フィンガースウィーツで見逃せないのがこの点である。とかく小さなモノは愛すべき存在として感情移入の対象になりやすい。また、既存のモノはしばしば小さく、ミニサイズ化されることで美的好奇心や所有欲、蒐集欲をそそり、必要かどうかを考える以前に、瞬間的に購買を決断させる力を発揮する。そして見渡してみると、そういった事例は様々な商品分野で見られるのであり、それが今、食べ物の世界で顕著なのである。買い物の動機づけには様々な視点からの価値訴求が必要であるが、想像を超えたミニサイズが楽しさという価値の提供につながっていることに目を向ける必要がある。





 

株式会社ツタガワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ