ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
9.1.2006
次は梅酒〜伝承的飲食物が探求意欲をそそるなかで

食探検、味覚の探検・探求が広く飲食の分野を刺激的なものにする大きな要因になっている時代が続いているが、近年、この探検・探求意欲につながる大きなテーマになってきているのが、地域特有の伝承的な飲食物の発掘である。それはまた、古くからその地域に伝わる飲食物を大切にするスローフードを志向する時代感覚とも重なり合う。今そのテーマと重ね合わせてとらえることのできるホットな飲み物が梅酒であり、この馴染み深い飲み物を一捻りして「梅酒バー」なるものを新たな売り物にする店も登場してきている。

その店は、今年4月、新宿ルミネ2の1階にオープンした、20代女性を顧客に賑わうデリ&カフェ「バルバラ・ポータブル」。この店、朝8時から夜11時までの営業で、朝ごはん、ランチ、夜ごはんと一日中活用できるのだが、興味深いことに、夜になると「プラム・バー」としての性格を強調するものへと変化する。そこでは20種類ものこだわりの梅酒がラインナップされ、梅酒を口にしつつ、惣菜で気軽に夕食を楽しむことができる。梅酒は1杯550円からで、ソーダ、ジンジャエールで割る場合にはプラス100円となる。

「バルバラ・ポータブル」。

右/梅酒は「小正」。ひじきの煮物、マグロの生春巻きとともに。

プラム・バーで提供される代表的な梅酒には次のようなものがある。鹿児島県産で紀州の減農薬梅を本格芋焼酎の製造元が丹精込めて漬け込んだ風味豊かな「くろまろ梅酒」。やはり鹿児島産で薩摩藩士の里の焼酎蔵が、有機農業で有名な農園の梅酒を使い、蜂蜜で漬け込んだ「小正」。宮崎産で本格麦焼酎に漬け込んだ「神楽」。茨城産で地元の梅を漬け込んだ日本酒仕込みの「月の井」。沖縄産で首里の由緒ある泡盛の醸造所による、古酒に漬けてさらに3年以上寝かせている「梅美人」。岡山産で大粒梅を長期貯蔵乙類焼酎につけて梅のエキスを抽出し、味をととのえるため吟醸酒をブレンドしているのが特長の「早春」。いずれにも「本格焼酎」「泡盛」「日本酒」「本場の梅」「無添加」「有機栽培」「黒糖」「蜂蜜」というキーワードがあるのだが、この店が提供する20種類の梅酒にはこうした何らかの特長があり、それが探求意欲をそそるポイントになっている。

梅酒の基本的魅力は、古くからの伝承的知恵に基づく薬効を持っていることにある。この伝承的な飲み物を、全国各地の酒造元によるこだわりの酒造りの技で一捻りすることで、梅酒にも本格焼酎と同様にスローフードとしての一面が生まれる。そのことは梅酒に、飲み比べたり、薀蓄を語ったりすることの楽しさをもたらし、『全国梅酒探求』といった動きへと発展することを予感させるのである。実際、「バルバラ・ポータブル」だけでなく、梅酒を売り物にする飲食業態がいくつか見られるようになってきている。

古くからの伝承的な飲食物の多くは、現代生活者の代替医療意識にもつながる、体質改善、健康維持、医食同源、さらには飲食することで美しくなるという意味での「美食同源」といった面で何らかの効能を持っている。このところ酢をベースにした新しい飲料がクローズアップされるのもそのあらわれと見ることができる。こうしてみると、飲食における商機開発手法のひとつが、日本各地、世界各地の伝承的な飲食物を標本収集し、それを時代感覚と擦り合わせて一捻りすることにあると言える。





 

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