美しくなるモノ・コトの探検意欲を刺激すること。消費を考えるうえでの重要なテーマである。何らかの意味で美しくなることの効用を説かれると、年齢を問わず多くの女性は「この機会を逃すわけにはいかない」という気持ちになる。ところで、最近、美しくなるための課題として意識されているのが「姿勢の改善」であり、それは美しいプロポーションを手に入れることにもつながる。だからこそピラティスが人気になる。また、姿勢改善の課題意識はこのところの女性の間でのランニング人気の高まりにも読める。ランニングは美しいフォームで走ることで美しい姿勢をもたらすとされているのである。

姿勢の改善と言えば、コンサルティング販売を行うフィットネスシューズやウォーキングシューズの店で、ユニークな商品がヒットしている。「マサイ・ベアフット・テクノロジー」、略して「MBT」と呼ばれるこの靴は、素足で凸凹のある地面を歩く、東アフリカの遊牧民、マサイの人々の素足歩行術を再現することができるというものである。マサイの人々と言えば、すらりと均整の取れた体つきで、頭の上に荷物を載せて運ぶ姿を思い出すが、これは地面から衝撃を受けにくい歩行で、頭・肩・腰を上下左右に動かさずに歩いているからだと言う。また、マサイの人々には関節痛や腰痛に悩む人が少なく、姿勢もいい。「MBT」はこれらの点に着目して、スイス人技術者のカール・ミュラーによって考案されたものである。

都会の鋪装された道路の上でも素足で自然の地面の上を歩くのと同様の効果を得ることのできる「MBT」の最大の特徴は、5つの層からなるソールにある。ソールの中央部分に膨らみがあるため、最初はこれを履いて立つとかなり不安定で、上体が前後に揺れてしまう。しかしこの不安定な状態でバランスをとろうとすることが全身運動になり、脊柱や関節へ負担をかけることなく筋肉の活動効率を上げ、姿勢を矯正し、バランスのよい筋肉の発達やＯ脚・Ｘ脚の改善、体脂肪率の低減などにつながると言う。つまり、結果、美しいプロポーションを手に入れることができるのである。

売場ではマサイ族の歩行術や「MBT」の正しい利用法など、映像による解説がなされている。

最初は歩き方にコツがいるため、店頭では販売員が1対1で応対し、「MBT」を履いて売場内を少し歩き回りながらコツが伝授される。デザインのバリエーションも豊富にあり、白や黒にシルバーを組み合わせたアスレティックシューズ・タイプを中心に、黒、茶、ベージュ、あるいは水色のバックスキンなど、タウンシューズとしてもこなせるものも多彩に企画されている。価格は29,400円・30,450円が中心。

「MBT」には、その効用に他人に話してみたくなる薀蓄があり、「ひとつ試してみるか」という気持ちにさせる力がある。しかも、カジュアルに履く靴にこんな遊び心で履けるものがあってもいい、といった言い訳も成立する。そして何よりも注目したいのは、履くことが即ちエクササイズになるという性格を持っていることだ。履く、あるいは着ることがエクササイズ効果をもたらす。これは美しくなることにつながる商品開発のコンセプトとも言えるのである。