ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.6.2006
立地の読み方とエチカ表参道と

商売を成功させるには3つの秘訣がある。1に立地、2に立地、3に立地である。こう説いたのはアメリカの巨大百貨店、マーシャル・フィールズの創業者であるマーシャル・フィールドである。立地を客観的に評価しつつ、どうモノにできるよう翻訳するか。小売業にとっては常につきまとう課題である。そんな奥深い課題を考えるうえでの興味深い事例が、昨年12月初めにオープンした商業施設、東京メトロのエチカ表参道である。全体の店舗面積が約1,300・、26の店舗で構成する小規模なものだが、立地の翻訳に思考のあとがうかがわれるものになっている。

エチカ表参道は駅の地下構内の2種類の異なるエリアで構成される。改札の内と外である。前者のエリアは「乗降乗り換え客」に限定されるわけで、その立場での買い物への動機と求める価値は後者のエリアの利用客とはかなり異なる。また、後者のエリアも、改札を出てきた人、これから路線を利用しようとする人、あるいは近くで働く人、近くに住む人と、想定できる利用客のプロフィールは様々である。

こうした立地を見据えると、地下に広がる駅構内には利用、買い物について3つの性格が考えられる。そのキーワードは「ついで」、「道草」、「最寄り」である。言うまでもなく、ついでの買い物は改札内の「乗降乗り換え客」を「顧客」に変えることであり、道草を楽しませて買い物させることは、改札を出てきた人、これから路線を利用しようとする人を意識することであり、最寄りの利用の促進は、近くで働く人、近くに住む人に着目することである。また、最寄りの利用をする人も大半が表参道駅での乗降客になるわけで、彼らはその際に、ついでの買い物客、道草的買い物客になる可能性を持っている。

「オモ・キノクニヤ」 「マルシェ・ドゥ・メトロ」。

エチカ表参道はこの点をしっかりと押さえた構成になっているように思われる。そしてそれぞれについて核になるテナントやゾーンを配置している。改札内のついでの買い物については高級食品スーパー、紀ノ国屋による小型業態「オモ・キノクニヤ」、道草的買い物についてはワールドによるファッション雑貨業態「フリヴォル」、最寄りの利用については208席のフードコートの「マルシェ・ドゥ・メトロ」といったぐあいに。また、これら以外に「クイック」を切り口にしたビューティーサービス・ゾーンを設けていることも注目されるが、ついで、道草、最寄りを踏まえながら、テナントの多くが地上に広がる青山、神宮前にふさわしい感度、質の高さを感じさせる。

いわゆるエキナカが新たなSCのタイプとして注目されるなか、エチカ表参道もそれと重ね合わせて取り上げられる傾向にあるが、それは的を射たものではない。ここは地上に広がる足元商圏をとらえる、地下にある商業界隈なのである。つまり、駅利用客の最大公約数的プロフィールである、近隣で働く人々や住民(きわめて重要な常顧客となる)を意識した全天候型の商業界隈なのである。ともあれ、ぜひじっくりと観察してみることをお薦めしたい。なお、その際には地上の街の観察もお忘れなく。





 

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