ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

5.8.2006
高いものを敷居を低くして売る〜店作りの斬新な視点

コムデギャルソンと言えば創造性における才もさることながら、小売りにおける視点の独自性ということでも考えさせられることの多いデザイナーブティックである。例えば、マンハッタンにおけるコムデギャルソン・ブティックのソーホーからチェルシー地区への移転。そこには、ソーホーのようにプレステージブランドの旗艦店が数多く集まる完成された商業街になってしまったところでは、新しい創造性を育みにくい、語りにくい、という思いが感じられる。研ぎ澄まされた斬新な感性は、それとは対極にある猥雑な、あるいは荒れた環境の中でこそ雄弁になる。これはニューヨークの街の発展を観察してきて痛感することでもあるが、コムデギャルソンが出店した当時のソーホーは、商業立地の常識からすれば不適格な、軽工業の零細工場とその跡が点在するところであった。移転した先のチェルシー地区はそのかつてのソーホーを彷彿とさせるところである。

コムデギャルソンの小売りに対する独自の考え方は名古屋三越が栄本店に隣接して開発した「ラシック」内の店にも見られる。この店、一見したところ、セールの真っ最中のファッション店という印象である。通路に対して完全にオープンで、オレンジ色のテント風の布をあしらったワゴンが配置され、商品陳列もどことなく無造作な雰囲気である。また、ワゴンも含めて什器はすべて可動式で、常設店舗というよりも臨時店舗、期間限定展開店舗の風情である。そして、通路に面した天井近くにやはりオレンジ色のテントを看板代わりに取り付け、かろうじて店らしき外観を創り出しているのだが、そこに記された文字をしっかり読んでみて、はじめてコムデギャルソンであることがわかる。

店内に足を踏み入れ、商品を手にしてみると、無造作な店作りとはまるで対極にあるコムデギャルソン、同オムといったコレクションラインで構成されていることがわかる。要するにコムデギャルソンの11ブランドをミックスした品揃えの店なのである。プレステージ性の高いデザイナーブランドと臨時店風の粗末な雰囲気の店作り。短いサイクルで旬の商品を次々に打ち出していくという印象はあるものの、やはりこの相容れることのないように思われる対極の要素を結合させたところに、小売りに対する斬新な視点を感じ取ることができる。つまり、プレステージ性が高いからそれにふさわしい店作りをするのではなく、敷居の低い、顧客を限定せず、誰もがのぞける店を作ること。そこには、ファッションとはそうやって気軽に買って、気軽に着てもらいたいものなのだという思いも感じられる。

ファッション店のあり方、さらには広く店作りのあり方を考えるうえでの刺激的な事例である。





 

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