ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
10.5.2006
初めて親になる人が依存できる育児用品のデスティネーションストア

いわゆる少子化は一人の子供により多くの金をかけて大事に育てる姿勢をもたらし、そのことが子供に関する消費の高質、高級化という動きをもたらしている。アメリカで先行し、日本でも見られ始めるようになった動きである。そこには、成長期における一過性の消費について、一応のモノで妥協するのではなく、最上のモノを追求するという価値観の変化があり、これに反応する商品開発や業態開発が子供関連の市場に新しい局面をもたらしている。このことは子供のなかでも特に乳児にまつわる消費に顕著に見られる。

その点をとらえる優れた事例がソーホーに誕生した「ギグル」という「育児室」をテーマにする専門業態である。ここはベビーベッドに始まり、育児室や育児そのものに必要なモノ、さらにはベビーカーも含めて乳児連れでの外出に必要なモノまで、親の立場で必要なモノを多様なカテゴリーにわたって網羅している。要はここに来ればすべてが揃うのであるが、これらがじっくりと回遊できる、程よい規模の中に納めることができているのはそのセレクションにある。つまり、初めて親になった立場で押さえておかねばならないモノ、いろいろあるなかで最もよくできたモノ、を選択の方針にし、それは同時に顧客がすべてを頼れるというデスティネーション性の提供につながっているのである。

その方針にかなうモノとは何か。この店はその点についての判断基準を具体的に挙げ、印刷物にして来店客に配布している。そこには、乳児は環境の影響を受けやすいことから、体に触れるものには毒性のないモノ、オモチャについては洗えるモノ、成長に合わせてできるだけ長期にわたって使用できるよう工夫されたモノ、デザインや機能に感動するような革新性や新機軸のあるモノ、扱いが容易でシンプルにできているモノ、乳児を連れての旅行等の際に携行することにストレスを感じさせないモノ、スペースをとらない、できる限りコンパクトなモノ、リサイクルできるなど環境への配慮を示せるモノ、といったぐあいに10の基準が明記されており、親たちを指南する力を持つのである。

この判断基準に沿って例えば次のようなモノを選択している。ベビーベッドとして使え、揺りかごとしても使え、成長すればトドラーベッドにもなる、ノルウェイのストッケの「スリーピ・システム」。スウェーデンのベビービョルンの、離乳食を食べさせやすい、柄が長く、柔らかい感触のスプーンや、乳児が扱いやすく、口の中に食べ物を運びやすいプレート&スプーン。折り畳んで旅先にも携行できるバウンサー(揺りかごのように揺れるリクライニングシート)。乗り心地のよさ、凹凸のある街路での取り回しのよさに加えて、ファブリック部分を好みのカラーで仕上げる点が魅力の、ブガブーのベビーカー。これらはほんの一部に過ぎないが、取り上げている商品についてはすべてそれを選択した根拠があり、店頭ではそのことがどの判断基準を満たしているのかを含めて明らかにされている。

「ギグル」を印象づけているのがエントランスホールに設けられたベビーカーのパーキングロット(5台分)。顧客どうしや販売員と顧客がおしゃべりを楽しむ溜り場としても機能している。

相談能力を持つ販売員による接客販売も含めて、「ギグル」は、親になるのは初めてで、何をどう揃えていいのか把握できないが、価格が高くてもそれに見合った正しい買い物ということでの納得を大切にしたいと考える人にとってのデスティネーションストアである。従って、顧客一人当たりの購買額はきわめて大きなものになる。現代の親たちを指南する力が購買を囲い込む力になる。育児用品についてアメリカ同様の欲求が見られる日本において、「ギグル」は手本となる業態開発事例である。





 

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