ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
10.10.2007
自社ブランドの『卒業生』を囲い込む意図での新事業への挑戦

アメリカで目を引くのがティーンを主役にする消費市場の発展ぶりであり、なかでもティーンファッション業態の成長には目をみはるものがある。現実に買い物先として支持されているティーンファッション業態は様々あるが、ティーンを含んでやや年齢が上の大学生男女を中心に高い支持を得ているのがアバクロンビ&フィッチ(以下A&F)とアメリカン・イーグル・アウトフィッターズ(以下AE)である。前者は、プレッピー感覚、アスレティック感覚、ヒップホップ感覚の融合するファッション性に特色があり、スノビッシュな雰囲気の店作りもあって比較的裕福な私立大学生の支持を得ている。一方後者は、最新のトレンドを適度に取り入れたトラディショナル感覚に親しみやすさがあり、前者に比べて価格もやや安いことから、州立大学生を中心に支持を集めている。

A&FとAEは大学生ファッションの2大チェーンと言える地位を築き上げているのだが、となれば、これらのチェーンが現顧客のライフステージの進展に目を向け、新たな業態開発に挑戦したとしてもおかしくはない。つまり、現顧客である大学生は社会に出て次なるライフステージへと移っていくなかで、これまで着ていたA&FやAEから離れ、より大人の洗練を感じさせるブランドへと移っていく。そこで問われるのが、自社ブランドを『卒業』して、つき合い先を他社のブランドに変えていくことを黙認するのか、あるいは『卒業生』を自分たちが育成した事業資源ととらえ、彼らの行き先となり得るブランドを開発するのか、ということである。

『卒業生』を自社で囲い込む。A&Fでは3年前から、大学卒業後の22歳から35歳の年齢層の男女をターゲット顧客層にする「ルールNo.925」と名づけた新店と取り組み、AEもまた、25歳から40歳を惹きつけることを狙いにするカジュアルファッション業態、「マーティン+オサ(Martin+Osa)」の開発出店を進めている。なかでも興味を惹くのが「マーティン+オサ」で、その店名の由来は、1920年代から30年代にかけて活躍した、アメリカの冒険写真家、マーティン・ジョンソン、オサ・ジョンソンのジョンソン夫妻にあり、彼らはアフリカや南太平洋を探検旅行し、写真や日誌に記録したことで知られ、歴史に名を残している。

「マーティン+オサ」。店内は右がメンズゾーン、左がウイメンズゾーンに分かれている

店名の由来に感じ取れるように、「マーティン+オサ」のファッションとしての特色は、アドベンチャー系のものを含んで、広くトラベルのシーンを描くところにある。基本になっているのはプレッピーのニオイを感じさせるトラディショナル・スタイルで、これにデザイン上の一芸や一捻りを加え、成熟した服という印象を与えることに成功している。価格は質の高い素材やディテールへのこだわりからすると、こなれている印象を受ける。

トラベルのテーマ性は店舗デザインにも徹底されている。広い開口部のエントランスの両サイドを天然木で仕上げたストアフロント。店内環境は天然素材に徹し、ふんだんに木や石などが使われている。また、店内には、今切ったばかりの木の香りのする霧が、隠れたところにある噴霧器から噴出されており、森林浴をする境地に導かれる。さらに、店内の照明はコンピューター制御によって、絶えず、薄暗くなったり明るくなったりと変化する。これは空を雲が横切っていくことでの光の変化を意図するものである。

ティーンファッション業態の『卒業生』のつき合い先は豊富にある。バナナ・リパブリックしかり、Jクルーしかり、いや、百貨店に目を向けると、ポロ/ラルフ・ローレンもある。市場はもう既に創出されているとも思えるのである。そんななかでさらに市場を創造するには突出して明快な特性がなければならない。「ルール」と「マーティン+オサ」が検証修正を重ねながら本格展開に踏み切れる業態へと進化していけるのかどうか、これはマーケッターにとって興味深いテーマである。





 

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