ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.10.2008
『21世紀版ポップカルチャー』を売るアーバン・トイ業態、「キッドロボット」

ニューヨークのソーホーに「キッドロボット」という、アーティストによる限定版のビニール製の掌サイズのフィギュアを企画・製作・販売する店がある。たかがフィギュアと思われるかもしれないが、これらはサブカルチャーやそれに関連するキャラクターと密接な関係を持ち、十年ほど前から「アーバン・トイ」と呼ばれて新しいジャンルを形成してきている。また、これを創造の対象として興味を抱くアーティストたちが欧米を中心に増え、自分たちの限定版フィギュアを創造する動きが爆発的に広がり、「アーバン・トイ」はアート価値を持つコレクティブル・アイテムとして人気になってきているのである。

「キッドロボット」は今から5年前に、データベースのプログラマーでもあり、フィギュアのデザイナーでもあるというマルチな才能を持つポール・バドニッツが興したビジネスである。それは「アーバン・トイ」の製造小売業として今なお唯一無二のものであり、それゆえの存在価値の高さもあって、ニューヨークの名物店となってファンを惹きつけ、賑わっている。なお、同店はニューヨークに開店後、サンフランシスコとロサンゼルスにも出店し、計3店を展開している。店はいずれも40・程度の小規模なもので、フィギュアは作品を見せるようにガラスケースや棚に整然と陳列されており、新しい性格のアートギャラリーの印象がある。

「キッドロボット」ソーホー店。

「キッドロボット」の魅力を解く鍵のひとつが「アーティスト」である。この店が取り上げるフィギュアは、例えば香港のマイケル・ラウ、日本のデビルロボッツ、フランスのチルト、アメリカのフランク・コジック、ジョー・レッドベター、トリスタン・イートンといったぐあいに、すべてアーティストによるアート作品としての価値を注入したものである。いずれにもキュートネス(かわいらしさ)、マッドネス(バカバカしさ)、ブラックネス(怖さ)といった要素が入り混じっており、100%ハッピーと言えるものはない。どのフィギュアも複雑な感情を匂わせるもので、それだけに心を動かす力がある。

魅力を解くもうひとつの鍵が「限定版」で、各フィギュアは多くても数百という個数しか製作されない。追加製作することはないので、売切れてしまえば永久に手に入らない。従って多くのフィギュアは歳月の経過と共により価値が上がる。そのことがいっそう蒐集意欲をかき立て、顧客をコレクター化し、足繁く店に通わせる力になる。価格は6ドルから2千ドルとかなりの幅があるのだが、店頭ではいずれも一点しか陳列されていない。このように、店作りにおいても「独占限定感」と「所有することへの満足感」を高める意図を読み取ることができるのであり、商品を作品として価値づける姿勢がアーティストを共感させ、それが彼らとのコラボレーションを活発にするというサイクルを生み出している。

「キッドロボット」は世の中に二つとない店がいかに強みを発揮するかを改めて教えてくれるのだが、この強みは経営資源になってさらに新たな事業を生み出している。それはファッション分野への進出であり、フィギュアを通して創出した固有のアート価値をファッション価値に翻訳するものである。具体的にこれらは、フィギュアに関わるアーティストやポップアーティストたちとのコラボレーションによる色柄を楽しませるカジュアルファッション衣料(メンズ、ウイメンズ、キッズ)ならびに服飾雑貨で、やはりフィギュア同様に生産量を限定する手法をとっている。

「キッドロボット」を見ていると『21世紀版ポップカルチャー』という思いを強くする。そういった意味でも要注目であるが、今年には東京に出店するという。





 

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