ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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7.17.2008
「ブティック第二時代」を牽引する「スクープ・ニューヨーク」

小売業の歴史を振り返って最も革新的な業態開発コンセプトの一つと言えるのが、1970年前後に台頭してきたブティックである。ブティックは、需要を汲み取って供給を行うそれまでの小売店の姿勢に対し、店主の美意識や価値観を語りかけ、そこから生活者の購買意欲を引き出していくもので、それがブティックの定義でもある。つまり、需要に対応するのではなく、提案によって需要を創造することに小売業学上の意義がある。また、ブティックはファッションに限らず様々な業種に広がると同時に、店側の発信する「趣味(美意識、センス)の良さ」における独自性が特化になるということで新しい意味をもたらした。ちなみに、今日、ブティックをセレクトショップと呼ぶ傾向にあるようだが、それは本質を表現する呼称ではない。

このブティックの動きは、1980年代から90年代にかけて、製造小売業(SPA)が台頭し繁栄するのとは対照的に停滞してしまうのだが、20世紀の終わり頃から、まるで30年前を思い出させるように再びその動きが活発になってくる。新たなブティックが次々に誕生し、それらはニューヨークでミートパッキング・ディストリクトやノーリタといった、それまで商業地とは呼べなかった地域を感度の高い店の集積地へと発展させてきている。こうして今やマンハッタンで定点観測に値するブティックは数多くあるが、そのなかでもファッションブティックとして突出した注目の存在が、1996年に開業し、今に続く「ブティック第二時代」の先駆けとなった「スクープ・ニューヨーク」(以下「スクープ」)である。

「スクープ」は、衣料、服飾雑貨についてファッションの最先端を提案し続けることにこだわりを持ち、最先端で共鳴しあう人を、年齢を超えて顧客にする。新しさの興奮という意味でのファッションへの熱い思いが基盤にあり、それを有名無名問わずクリエイター物をセレクトすることで具現化し、最先端ファッションの発掘場所としては、他の追随を許さない、ニューヨークを代表する店という評判と地位を確立している。この「スクープ」が、ブティックとしての既成の常識を超える規模である920平方mの大型店を新たにソーホーに出店し、その注目度はさらに高まっている。

「スクープ・ニューヨーク(SCOOP NYC)」の新大型店(473-475 Broadway, N.Y.)。

「スクープ」はこれまでウイメンズストア、メンズ&ウイメンズストアを展開してきているのだが、この大型の新店では新たにキッズゾーンも開発し、顧客とのつき合いをファミリーへと広げる意図をうかがえる。店内はシンプルで飾り気のないロフト風の環境でデザインされ、中央の柱に沿って一直線に伸びるハンガーラック、壁面の棚、所々に設けた平台と、什器の構成もまた無造作なほどシンプルである。そこには商品こそが主役であるという思いが感じられ、実際、この店に入ると商品に吸い込まれる感覚を覚える。なお、ここでは最先端性を尺度に百を超えるクリエイター・ブランドがセレクトされている。名のあるところでは、メンズを見ればジョン・ヴァルヴェイトスやジェームス・パースが、ウイメンズではステラ・マッカートニー、アリス&オリヴィア、マーク・ジェイコブスが、キッズではサム・リトル、キコ・キッズといったぐあいに。

「スクープ」は「究極のクロゼット」を謳い文句にしており、それにふさわしくこの大型の新店では新たにパーソナルショッピングサービスを提供している。来店時に依頼すれば希望を踏まえつつ服選びを手伝ってくれ、予約すれば来店までに顧客にふさわしいものを店内の商品から選び出しておいてくれる。百貨店では既におなじみのサービスであるが、個客とのつき合いの深耕、そして一人当たりの年間購買額の向上に効果のある時間節約型、センス指南型の一対一のサービスがブティックにも導入されるようになったというのは興味深いことでもあり、同時に注目すべきことでもある。

標準化された大量販売型の商品を打ち出す製造小売業がファッション市場の巨大勢力となるなかで、それとは対照的に、ファッションの本質である新しさへの本能を刺激する提案を特色にするブティックへの期待が高まっている時代である。そこに「ブティック第二時代」の意味がある。





 

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