ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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5.11.2009
「アンスロポロジー」に読み取る繁盛持続店の条件

それぞれに異なる買い物価値を語りかける多様な業態が凌ぎを削るという、今日の小売競合状況に通じる起点は1980年代末頃にあるが、それからの20年を振り返ってみると、この間の繁盛持続店のひとつのタイプとして見逃せないのが、「マーケットプレイス(市場)」の性格を持つ、見て歩く楽しさを提供し続けている店である。店にとって生活者から予測がつくことも大切だが、予測を超えた部分や要素を持つことにも意味がある。そういった予測させない店の原型がマーケットプレイスで、日によってそこに出されるモノは変化し、そのことが心ときめくモノとの出会いへの期待を抱かせる。その結果、生活者は時間と体力を割いてでも出かけたい衝動に駆られ、モノと出会う楽しみを遊びとして意識することができる。それはその時々の消費観を超えて支持される店の価値である。

1992年の創業以来、この価値で繁盛を持続しているアメリカの事例が「アンスロポロジー(Anthropology)」である。ここは「心地よい、心温まる、色気のある日常」と表現できる生活美学で多様なカテゴリーの商品を束ねるクロスマーチャンダイジング型の店である。扱いカテゴリーは驚くほど多岐にわたる。婦人服、婦人下着、部屋着、アクセサリー、服飾小物、石鹸やボディケア製品、ルームフラグランス、インテリア、テーブル&クッキングウエア、ホームアクセサリー、リネン類、ステーショナリー、ギフトグッズ・・・・といったぐあいに。オリジナル商品もあるが、大半がセレクトによるもので、その際の選択尺度になっているのが、多くの女性の心の中に潜んでいる、優しい装飾美を持ち合わせたモノと一緒に暮らしたいという欲求を刺激することである。

このように、提唱する生活美学への共感が顧客とのつき合いの強固な基盤になっているのだが、この店にはしょっちゅう出かけたいという気持ちにさせる要素がある。そのひとつが、気取りのないマーケットプレイス感覚のゾーニング。標準的な店の規模は1,000u弱だが、この中に百貨店を凌ぐ多様なカテゴリーの商品が境界なく渾然一体となって展開されている。ゾーニングはコーナーやアイランドの形態をとっているのだが、それらには商品カテゴリーでくくったものもあれば、そうでないものもあり、提唱する生活美学に共感する顧客にとっては、理性的な秩序がないことが隅々まで見て回りたい楽しさになり、頻繁に出かけたい気持ちにさせる力になる。そしていまひとつの要素が、品揃えの一部が短いサイクルで常に変化することである。クローズアップ商品は日々変化し、コーナーやアイランドを構成する中身も一変する。その点でもまさにマーケットプレイスであり、変化することが「モノ探しに出かけたい」という気持ちにさせる。

「アンスロポロジー」は全米に100を超える店を展開しているが、その魅力を最もよく表現できているのがマンハッタンのロックフェラーセンターに出店している新店である。ここでは様々なゾーンが部屋の雰囲気を持ちながら連なり、店を構成。邸宅をイメージさせつつ、そこにマーケットプレイスのゾーンニングを見事に融合させている。

いずれの「アンスロポロジー」も所得的にはアッパーミドル以上の、知的レベルの高い30代から40代の女性で賑わっているのだが、この店で感心するのは、マーケットプレイスのコンセプトに忠実に「変化する」ことを更新し続けていることである。マーケットプレイスの概念を消化した、見て歩く楽しさのある、しょっちゅう出かけてみたい気持ちにさせる店は、間違いなく繁盛持続店のひとつのタイプになることを改めて認識するのである。





 

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