ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.8.2010
新たな界隈性をとらえる〜表参道ヒルズ「キッズの森」

既成の街が新しい顔を持つようになる。その興味深い事例が表参道界隈である。ここはこのわずか2年の間にベビーカー連れのメッカという街としての新たな一面を持つようになり、センスのよさを自認する親たちが高級ベビーカーを押して、オシャレな家族像を見せびらかすようにやってくる。表参道の歩道は道幅も広く、並木道としての環境もいい。それがメッカになる要因だが、最も決定的要因になっているのが表参道ヒルズである。間もなく4周年を迎えるこのSCの館内はスロープ状の通路で回遊できること、それに加えてオシャレ欲求の強い親たちのクラス感をくすぐる雰囲気があること、これらがポイントになり、表参道ヒルズが表参道界隈にベビーカー連れを引き寄せる核スポットとして機能しているのである。

こうした新たな界隈性とベビーカーで来館する顧客像の台頭に注目してのことであろう、表参道ヒルズは新たに「キッズの森」と呼ぶ、広さ420uのキッズゾーンをオープンしている。以前はヘアサロン&スパが入店していた区画で、SC内では目的があって行く性格の場所である。その点からすればきわめて活用しにくい区画なのだが、「キッズの森」はこの不利を逆手にとって、表参道ヒルズの中でも印象度の高いものにしている。具体的には、狭い間口のエントランスに「キッズの森」のサインを掲げてゾーンの存在を強調し、一歩中に入ると、袋小路状の導線設計で別天地と感じさせる環境を創造している。

「キッズの森」。ゾーンとしてのまとまりを強調する環境デザイン。ひとつの専門店街としての印象がある。

ゾーンは0歳から6歳向け商品を展開する6店舗と、充実した設備のベビールームで構成されている。高感度ベビー子供服・雑貨、しゃれた輸入物のベビー雑貨、高いデザイン性と機能性を併せ持つベビー&キッズ用品、海外のベビー子供服を中心に、雑貨、玩具、絵本や雑誌を取り揃えた子供と母親のためのセレクトショップなど、全体のテナントミックスも、表参道界隈にやって来る、デザイン性の高さを子供にまつわるモノに求める親たちを意識したものになっている。また、オーガニック成分によるスキンケアブランド「ジョンマスターオーガニック」の初の直営店が導入されており、赤ちゃんやプレママが安心して使えるスキンケアという視点から顧客を惹きつける存在になっている。

開業してみると、SCの開発段階では想定していなかった状況が見られる、あるいは起きてくる。しばしばあることだが、表参道ヒルズにとってここがベビーカー連れのメッカになるなど予測し得なかったことに相違ない。それはともあれ、新たな状況を素早く汲み取って修正強化へとつなげていく姿勢には学ぶべきものがある。SC進化を考えるうえで記憶に残る事例である。




 

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