ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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3.30.2013
「ザッカ」が来店客を創造する

東横線の渋谷駅が副都心線との相互乗り入れで地下に移動し、旧渋谷駅への郷愁も含めて話題体験の場として渋谷が人を集めているが、この傾向は昨春のヒカリエの開業に始まったものである。ミュージカルの劇場、多彩なアート施設、成熟した生活者を満足させる飲食フロアなど、これまでの渋谷の街にない魅力を持つこの複合商業施設は、多くの路線が集まっているにもかかわらず、通過するだけの街になっていた渋谷に、来街目的となるパワーを生み出したのである。実際、繰り返し足を運んでみて痛感するのが、賑わいが衰えることなく続いていることで、いわゆる開業景気を当てはめて考えてみることがナンセンスに思える。一気に来街者を創造したという点でヒカリエは歴史に残る複合商業施設と評価できるのである。

いわゆる開業景気は、話題を消費しに来る一見客による賑わいを指す。従ってそれが一巡するにつれ開業景気は終息するのだが、ヒカリエには何度でも繰り返し出かけてみたい魅力がある。つまり、リピーターが生まれていくことで賑わいが持続していると見ることができるのである。そして、その点で大きな役割を果たしているのが、ヒカリエの主要構成要素になっている「シンクス」である。

「シンクス」は既成の類型にあてはまらない、その点で興味を惹く店である。東横線・副都心線の改札前の地下3階から5階まで、8つのフロアで構成されるこの店は東急百貨店によるもの。地下3階から地下1階は食料品と化粧品のフロアになっており、この点を見れば百貨店の店作りに則っているのだが、1階から5階までを見ると、フロアごとに展開カテゴリーが分かれるのではなく、ファッションカテゴリーとホームカテゴリーの売場やショップがミックスされ、それぞれが明快な仕切り壁を持たずに存在していることもあって、全体が5フロアで構成される『ファッション&ホーム・マーケット』に思えるのである。

「アーバン・ザッカ・マーケット」を実感させる「シンクス」。
例えば、左はザッカ感覚のスウィーツを打ち出す「スイーツラボ」(食料品フロア)、右はパリに住む女性の暮らしをイメージしたセレクトショップ「オクタホテル」。


いや、歩いてみると、フロアと展開カテゴリーが一致している地下の3つのフロアもマーケット的性格を持っていることに気づく。実際、化粧品フロアには、和コスメ、漢方ブティック、アメリカンファーマシー、オーガニック素材の衣料雑貨の店などがちりばめられ、百貨店の既成の化粧品売場にはない、のぞいて歩くマーケットの楽しさがある。また、一般的に食料品フロアはそもそもマーケットの面白さを持っているのであり、「シンクス」ではさらにその面白さを強調するように、特にスウィーツの分野について発見の楽しみのあるショップがミックスされている。

こうしてみると、「シンクス」は『アーバン・ザッカ・マーケット』と呼びたい新業態ということになるのであり、「そぞろ歩き」を楽しませるマーケット創造に2つのポイントを読み取れる。ひとつが、売場やショップの並びに「法則」らしきものを感じさせない、次に何が来る予測のつかない配置である。そしてもうひとつが、ザッカをあちらこちらに点在させるMD(マーチャンダイジング)である。言うまでもなく、この2つのポイントは表裏一体になっており、売場やショップの配置における不連続感は、出会いが購買につながるザッカ展開においてはきわめて有効なのである。つまり、「シンクス」には食料品、化粧品からファッション、ホームに至るまでザッカが言わばMDの精神になっている。だから来店客はザッカ探しを楽しめるのであり、そのことは客の動きを観察してみてよくわかる。また、今も開業景気を超えて大勢の来店客で賑わっているのはザッカ・マーケットの面白さがあるからと考察できるのである。

俯瞰してみれば、雑貨/ザッカの存在がその店への興味と関心を高め、入店率を高め、来店頻度を上げ、購買頻度を上げることに貢献している時代である。そこで認識しておきたいのが、雑貨/ザッカには大別して2つの性格があることだ。それは、実用性を意識するモノと、遊び心や発見のある、気持ちを高揚させるモノ、である。きわめて感覚的表現になるが、前者は漢字の「雑貨」、後者はカタカナの「ザッカ」とするのがわかりやすいだろうか。そして勿論、2つの性格が融合する「雑貨&ザッカ」もある。世の中の雑貨/ザッカに関する店をこの性格に沿って分類してみると面白い発見があるはずである。ともあれ、今、購買につながる刺激創造の鍵は既成のモノを「ザッカ」として洗い直してみることにある。そんなことを「シンクス」に学ぶのである。




 

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