ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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11.1.2013
優れた定番を探求して共感を集める新・雑貨店

今春、東京・丸の内に開業した商業施設「キッテ」。既成の型にはまらない商業施設が丸の内という都心中の都心に出現したことに興味を覚えるのだが、ここに今注目しておきたい店がある。4階にある「ザ・ショップ」という名の店である。一見したところ、さしたる特徴のない生活雑貨店なので見過ごしてしまいかねないのだが、足を踏み入れてそこに並んだモノを眺めてみると、この店のただならぬモノへの思いに圧倒される。

「ザ・ショップ」は一言で表現すると、定番への熱い思いを形にしたものである。つまり、この店が取り上げているモノはすべて定番と呼べるもので、その品揃えの中核になっているのが、オリジナル企画の「THE(ザ)」と名付けられた商品である。日本ではTHE=ザという言葉は、しばしば普通名詞をその典型をあらわす固有名詞のように強調する形で用いられるが、このネーミングの場合も同様の印象を受ける。つまり、「そのモノと言えばコレ」ということで、定番中の定番といった意味を感じ取ることができる。

「THE」を構成する商品には次のようなモノがある。ザ・グラス。飲み口の当たりがよく、丈夫で食洗機が使えること。使い勝手のいい容量を求め、スターバックスのショート、トール、グランデの3サイズを規準に企画している。ザ・椀。伝統技法を守った手作りの漆器。いろいろな椀の形を検証し、最も椀らしい形を追求。長く使える丈夫さと修復可能であることがポイント。ザ・コースター。グラスにくっつかず、水滴を受けてもみすぼらしくならないこと。使い勝手を考えたタイル製。ザ・プレート。和洋中どんな料理にも合うこと、サイズ違いで使いやすいこと、食べ物がこぼれにくい縁の高さであること、収納しやすいことを考えた皿。ザ・ランチボックス。アルミ製の弁当箱。衛生的で、熱に強く、温めることが可能。上蓋が深く、汁漏れが起きにくい。オンとオフ、二つのタイプのザ・Tシャツ。オンタイプはインド長綿によるシルクの感触でジャケットに合わせて着こなせる。オフタイプは超長綿スピーマコットンの落綿を使用、こしのあるしっかりとした生地。色はいずれも黒、グレイ、白。

商品として踏まえねばならない市場性を念頭に入れず、最上の定番を追求してみた。「THE」を眺めているとそんな姿勢が共通しているように思われるのであり、従って、価格は高い。例えば椀の場合、26,250円という価格は、通常が3千円から5千円であることを考えると、まさに市場性を無視したものと言えるだろう。Tシャツの8,190円というのもしかりである。その点では心意気に賛同するか、持っているデザイン性の高さに価値を見出すか、いずれかのタイプが購買客ということになろう。ただ、その一方で、店である「ザ・ショップ」は、「THE」を言わばコンセプト商品として位置づけながら、優れた定番と認められるモノを様々なカテゴリーから選んで集め、買いやすい価格のものが顔を揃えている。全体として見ると「定番をテーマにするセレクトショップ」の性格を持つものとしてまとまっているのである。

実際そこに並んでいるモノを見ると、優れた定番にはいろいろなモノがあることに改めて気づかされる。ブリジストンの電動アシスト自転車「ハイディビー」、イワタニのカセットコンロ、腕時計のGショック、ダイソンの扇風機、チャンピオンのスウェッツ、リーバイス501、ロディアのメモパッド、モレスキンのノート、セロハンテープ、明治の板チョコ・・・・いずれも使いやすく、シンプルなデザイン、それでいて上質。小さな店であるが、店内を見て歩くと、慣れ親しんだモノに再発見の楽しさや喜びを覚える。同時に、こうした再発見が情報価値になり、知的なギフトとしても魅力を持つことに気づく。実際、ギフト購買の獲得はこの店が永続していくうえでの鍵となると考えられるのである。

世の中にありそうでないのが、よくできた定番である。「ザ・ショップ」はずばりこの課題に迫る、きわめて啓蒙的、啓発的な店であり、長く一緒に暮らしていけるモノを求める消費観を刺激する。




 

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