ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

3.16.2011
「グルメ・フードトラック」〜新しい出店形態として広がる

振り返ってみると、ニューヨークという都市を特徴づけてきたもののひとつが街頭で食べ物を販売するフードトラックである。ホットドッグ、プレッツェル、シシカバブ、タコス、ピタ、ピザ、ベーグル、ハンバーガー、アイスクリーム、キャンディー、搾り立てのジュース・・・・ビジネスピープルにとってこうしたフードトラックが提供するものは安くて手軽なランチになってきている。なかには行列の絶えない人気「店」もあるのだが、近年興味深いのは、グルメと呼べるレベルのメニューを提供するフードトラックが次々に登場してきていることだ。そして、実は今、街のあちらこちらに出没するフードトラックが、どのレストランやカフェでもなく、マンハッタンの食の繁盛店になっているのである。

提供されている食べ物がすべて100%オーガニックだと認定されている初めてのフードトラック。食材の保冷にはトラックに積んだソーラーパネル発電を使い、環境に配慮した営業方針で運営。

それらには、例えば、米農務省により、提供される食べ物がすべて100%オーガニックだと認められているニューヨークで唯一無二のレストランによるものあり、高級レストランによるビーフバーガーを名物メニューにするものありといったように、いずれも「これがフードトラック!」と驚いてしまうほどの味覚レベルの高さである。そしてグルメ・フードトラックへの関心を高めている要因として見逃せないのが、ストリートベンダープロジェクトが2005年から開催している「ザ・ベンディー・アウォード」である。これは、フードトラックについて人気投票でトップ5の最終候補を決定し、その中から審査員の選考でトップ3を選出するという内容のもの。また、一般人の人気投票による賞も決定される。

グルメ・フードトラックは決して安くはない。一般的な屋台の客単価が5ドルであるのに比べると倍ないしはそれ以上である。それだけに、これが1日200食売れるとなれば、いい商売になる。しかも、固定店舗のように家賃や内装などにかける経費がほとんどない。考えてみれば、かつてはフードトラックを踏み台に出世し、固定的な店を持つことに賭けたものであるが、今は逆の動きが出てきている。レストランを成功させたシェフが新たな出店フォーマットとしてフードトラックに目を向けているのである。新規出店が成長への鍵であることは言うまでもないが、フードトラックはその視点からの「出店カード」になってきているということだ。

こうしてみると、グルメ・フードトラックは新たなビジネスチャンスになってきていると言えるのだが、この神出鬼没の出店を商売として可能性のあるものにしている新ツールがあることも見逃せない。ツイッターである。グルメ・フードトラックと言われるところはほとんど毎朝、あるいは日に何度かツイッターでつぶやいている。「今日はここで営業しているよ」「今日はお休みだよ」「今日はこんなメニューがお薦めだよ」と。ほんの少し前までなら、神出鬼没であてにするのが困難だったフードトラックだが、ツイッターをフォローすることでその動きがリアルタイムでチェックできるようになり、その結果、運営する側は常連客を確保できるようになったのである。

ランチに時間やマインドを消費したくないとするニューヨーカーにとってフードトラックは必需の存在であるが、それらがグルメの方向で進化しているのが興味深い。かつては、気軽さと安さの結びつきに価値を見出したものが、高度な美味しさを気軽に調達できることに価値を見出す方向へと広がっている。そして、先端を行くニューヨーカーはグルメ・フードトラックを追っかけるのである。





 

株式会社ツタガワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ