1.6.2006
グリッタリング・シック

平凡なもの、安価なものにワクワクするような価値を与える『流行の魔法』がある。スワロフスキー・クリスタルをちりばめることである。この一年を振り返ってファッションの世界で印象に残るキーワードを挙げろと言われたら、それはスワロフスキー・クリスタルであろう。小さなことに見えるが、購買喚起のうえで、あるいは時代感覚を語るということで、大きな存在になっている。

そのきっかけは3年前のアカデミー賞授賞式にある。ここで候補者たちへのギフトとして、スワロフスキー・クリスタルで装飾をほどこした「ハワイアナス」が選ばれたのである。日本で昨夏のホットヒット商品になった「ハワイアナス」はブラジルの簡素な庶民的履物のゴム草履である。これとオーストリアを代表するスワロフスキーのクリスタルがひとつになり、安価なものがにわかにとびきりのファッションメッセージを持ち始める。この手法はその後今日に至るまで、いくつもの追随事例を生み出してきている。ジーンズやTシャツは言うに及ばず、新しくはあの「iPod」にも全面にこれをほどこしたモデルが登場している。

スワロフスキー・クリスタルがもたらすものはキラキラと輝く装飾美である。そして注目したいのは、このキラキラ感覚がバッグ、財布、アドレス帳、携帯ストラップといった服飾雑貨や雑貨に一気に広がってきていること。キラキラを生み出す手法も、箔コーティング、エナメル加工、全面ラメのグリッター素材をビニールコーティングする････といったぐあいに実に多彩な広がりを見せている。こうしてキラキラ感覚はホットなファッションメッセージになっており、特に若い女性に、何かひとつキラキラ輝くモノを持たねば、という気持ちにさせるものがある。

キラキラ感覚の背後にあるのは、このところのファッショントレンドの要素になっているセレブリティ感覚であり、グラマラス、ゴージャスといった、強さを増している美的感覚とも密接なつながりを感じさせる。「グリッタリング・シック」（グリッタリングとは「きらめく」の意味）とでも呼ぼうか。「きれい」ということの今日的成分要素としてキラキラ感覚が大切になっていることに留意しておきたい。