ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

3.1.2006
ビューティーケアにも広がる伝承的知恵に学ぶ動き

「ちどりや」。もとは京都の舞妓さんのための小間物店であったが、日本の伝統美をモダンにアレンジした商品を新たに開発、販売し、国内外で高い人気を得るようになったブランドである。商品には大きく化粧小物のライン、ケア製品のライン、つまみかんざしなどアクセサリーのラインがあり、ケア製品のラインナップのなかには、日本の伝承的な知恵に基づいて開発されたものが数多くある。例えば、保湿・保温効果の高い柚子オイルのリップバーム、スクラブ効果のある小豆とビタミンやアミノ酸を多く含む黒砂糖の洗顔石鹸、椿油をベースに柚子と檜のオイルを配合したボディローション、肌の深部の汚れも落として肌を明るくする効果のあるうぐいす粉(うぐいすの糞の粉)のクレンジングパウダー等々。

「ちどりや」のヒット商品に「舞妓はんのおしろい」なるものがある。2年前に登場して以来、ドラッグストアなどを中心に販売され、継続的な人気を得ているこの商品は、京都の人気舞妓が監修して開発されたおしろい(フェイスパウダー)である。ほんのり桜色をしたこのフェイスパウダーは、独特の構造を持つ粉が余分な皮脂を吸着し、高温多湿の季節にも化粧崩れしにくい透明感のある肌を長続きさせると言う。もともと舞妓さんの化粧には、京都の蒸し暑さのなかでも崩れにくいという評判があるのだが、そんな評判を背景にした能書きは現代の都会の女性たちにも説得力を持つ。

「まかないこすめ」。

この「ちどりや」に代表されるように、ここ数年、日本の伝承的な知恵を取り入れたケア製品や化粧品のブランドが着実に女性たちの心をとらえるものになってきている。そのひとつとして注目したいのが、1899年創業の金沢の老舗の金箔業者、吉鷹金箔本舗が開発した新たなスキンケア製品ブランド、「まかないこすめ」である。金箔作りは季節を問わず乾燥させた室内で行わねばならず、肌は常に乾燥と熱にさらされ、さらには作業工程のなかで柿渋や墨の中に手を浸すこともある。この環境は肌にとっては過酷なものであり、そこで金箔作りに携わる女性職人の間では、例えば「保湿にはビワの葉のエキスがいい」といった知恵が永年にわたって受け継がれてきた。「まかないこすめ」はそうした職人の間に伝わる知恵を商品化し、「肌にやさしく、ダメージに強いスキンケア製品」として売り出されたものなのである。

伝承的な知恵に学ぶ。これは衣食住にわたる重要なトレンドであるが、それが美の分野にも広がってきているのが興味深い。その地域に古くから伝わる食べ物を大切にするスローフードという表現にならえば『スロービューティーケア』。日本人としての肌や髪の質を意識すると、今後、民間伝承発のものがビューティーケアにおける見逃せない勢力になると思われる。





 

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