ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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7.11.2006
プレッピーのニオイと時代感覚と

いわゆるプレッピー・スタイルがニューヨークで大流行した最も近い過去が1980年である。2006年の今、NYを歩いていて感じるのが、その時ほどのブーム的情況ではないが、明らかにプレッピー・スタイルが合言葉になっていることだ。例えば、今、NYを歩いていて目に留まるのがブルックス・ブラザーズのウインドウで、色を含めたコーディネイトに「端正の美」の極みがあり、目にする者の感性を揺さぶる。同様に印象深いのがJクルーがクローズアップ訴求している「セール・トート」(セールとは航行の意味)で、これはセールフラッグ(航行用の旗)をデザインモチーフにしたキャンバス地のトートバッグである。また、クラシックなポロシャツが代表的アイテムであるラコステを、ブルーミングデールをはじめとする有力百貨店が一等地を割いて売場展開しているのも印象的である。

ブルックス・ブラザーズのウインドウ。

ブルックス・ブラザーズ、Jクルー、セーリング、ラコステ。これらをつなぐ糸がプレッピー、あるいはプレッピー・スタイルである。プレッピー・スタイルについては、それを正しく理解するためにも、本来、ピューリタンの価値観や英国貴族の伝統的生活観までを含んで十分な説明を要するのだが、かいつまんで言えば、アメリカの裕福な良家の生活姿勢を基盤にした、端正さ、清潔さをニオイにする、男女両性を基本にする服装である。四半世紀を経てプレッピー・スタイルが頭をもたげてくる背景には実に様々な要因があるのだが、それはさておき、21世紀に入ってからNYで痛感しているのが、年を追って「端正の美」が強まってきていることで、今年はそれがはっきりとプレッピー・スタイルと呼べるものになっているととらえることができる。

プレッピー・スタイルのニオイが刺激を感じさせる新しさになっていることは東京の街を歩いてもわかる。プレッピー・スタイルに通じるアイテムはポール・スミス・ウィメンやトミー・ガールといったブランドのコレクションをはじめ、様々なものに見ることができる。例えば、昨年にも増して男女ともに甘くきれいな色のポロシャツがホット&ヒットアイテムになっていること。また、テニスやゴルフ、ヨットといった、貴族のスポーツや遊び、プレップスクールやアイビーリーグの学生スポーツに根ざしたアイテムがクローズアップされていること。特に象徴的なのが、半世紀以上の歴史を持つ英国のテニスプレイヤーにルーツを持つフレッド・ペリーが注目ブランドになっていること。同時に、伊勢丹新宿店がこの5月に打ち出した、「インターナショナル・プレッピー」と題したファッション・ディスプレイと連動してクローズアップしたラコステのNYコレクションも印象的である。

NYには、90年代初めからの十年にわたるカジュアル・フライデーを見直し、新しい秩序を意識しつつ、全体的にはドレスアップ、エレガンスを志向していく動きもあれば、ファッション意識にとどまらず、生活姿勢にも、エスタブリッシュメント志向、サクセス志向ということでプレッピーに通じるものがある。ひるがえって、同様の志向は日本でもはっきりと感じられるものである。このところの流行語にもなっている「勝ち組」にはそのことを感じ取れるし、社会全体に上流人を志向する風潮もある。こうしてみると、NY、東京共にプレッピー・スタイルが台頭する背後には同じような時代感覚があることに気づくのである。





 

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