ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

11.2.2006
上流人志向と英国百年アイテムに関心を寄せる動きと

百年以上も前の1897年に英国で生まれた、旅行鞄と言えばコレ、トランクと言えばコレという「グローブ・トロッター」が人気になっており、そのことは羽田空港や新幹線の東京駅を利用する人々を眺めていて実感する。このトランクは発売当時から「象が踏んでも壊れない」という謳い文句で宣伝されてきているように、軽くて頑丈であることに特色がある。ポイントはヴァルカン・ファイバーという、軽さと弾力性を特徴にする特殊な紙を何層も重ね、樹脂コーティングしたものを素材に作られていることにある。驚くことに紙でできたトランクであるが、それゆえに磨耗によって色落ちし、衝撃によって傷がつくことにある。これはジーンズにおけるアタリにも共通することで、使用を重ねるごとに出来てくる色落ちと傷による表情の変化が『味わい』として美的に評価されているのである。

グローブ・トロッター・ジャパンが青山の骨董通りで展開する「ヴァルカナイズ」という店。「グローブ・トロッター」のほか「マッキントッシュ」も展開しており、英国百年アイテムへの関心の高まりを象徴する存在と言える。ウインドウにディスプレイされているのが「マッキントッシュ」のキルティングコート。

このところ「グローブ・トロッター」と同様の性格、由緒を持つモノがホット商品になっている。そのひとつが「マッキントッシュ」のコート。1830年にスコットランドのメーカー、マッキントッシュが世界で初めて発表したコットン生地の完全防水コートで、その実用性と完成されたシンプルなスタイルは世界の名品のひとつに数えられる。あるいは「バーヴァー(Barbour)」のジャケット。やはりスコットランドで1894年に世に送り出された、悪天候の下で働く水夫や漁師のための防水オイルスキンのジャケットで、ホースで水をかけても体が濡れなかったという逸話を持つ名品である。さらには、ダッフルコートやピーコートの名品である「グローバーオール」や、1970年アルペンスキーの世界大会で英国チームを観戦していた王室一家が着用していたものを復刻した「バッファー」のダウンジャケットやダウンベスト、「ファルコン」のフィッシングバッグ、「エッティンガー」のトートバッグなども。

そう言えば、当サイト本年7月11日号でも注目し、考察したように、プレッピースタイルが今、時代性や美意識を考えるうえでの重要なトレンドになっている。この秋、紺のブレザーが売れているのもそのあらわれと見ることができるが、このプレッピースタイルへの志向は、プレッピースタイルが英国のプロテスタントの価値観や英国貴族のスポーツや遊びなどの伝統的生活に根ざしているということで、英国百年アイテムに関心を寄せる動きと密接なつながりを持っているのである。

こうした英国百年アイテムに関心を寄せる背後には、生命感のあるモノと永くつき合うことが消費者としての知性の高さを表現するという思いも読み取れるが、一方でこのところの「上流人を志向する」動きと重ね合わせてみることができる。つまり、ここに取り上げた、今、関心を集めている英国百年アイテムは「ロイヤル・ワラント(英国王室御用達)」ブランドでもあり、上流人の範を英国の貴族に求めると考えてみることもできるのである。





 

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