ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

1.1.2007
使用価値ではなく美的価値、作品的価値に惹かれる

五感に語りかける美しいモノと一緒に暮らすことは精神を高揚させるということでの豊かな暮らしに通じる。そんな意識が高まり続けている時代にあって、これを満たすモノ探しをすることは、年齢性別を問わず、生活者の楽しみになり、その対象は日本の伝統工芸品や世界各国の民藝品、あるいはアンティークや中古品へと広がり、そのことが美的価値を特色にする様々な雑貨業態を生み出す背景要因になっている。このところそういったモノ探しの期待に応えるところとしてつき合い価値を高めてきているのがザ・コンランショップ、シボネ、ヤマギワリビナ本館といったホームファーニシングブティックである。

いずれも家具、調度品、あるいは生活家電を主たる売り物にしながら、美的価値の高さという無形の資源を様々な雑貨的性格を持つカテゴリーへと広げ、頻繁に足を運び、のぞいて見たいという気持ちにさせる。こうした店でこのところ目につく商品になっているのがラジオ、それも美的存在感のある、作品的魅力を持つラジオである。そのひとつが英国のロバーツ・ラジオ社の「ロバーツ(ROBERTS)R250」。同社はロイヤルワラント(英国王室御用達)を名乗ることを下賜された由緒ある企業で、今ホットになっているのは、1953年に発売された通称「スウィンギング・ラジオ」の復刻版R250である。持ち運びのハンドルがついたポータブルラジオで、カラフルな高級レザーで覆った仕上げに特色と所有欲をくすぐるポイントがある。音質が優れていることにも定評があり、価格は39,800円。

左が「ロバーツR250」、右が「ブッシュラジオ」。

「ブッシュ(BUSH)・ラジオ TR82」も。ミッドセンチュリーモダンの要素を持つ、まろやかな流線型がたまらなく魅力的な、1959年に英国で誕生し、若者音楽を育てたという神話を持つトランジスタラジオの復刻版である。これはロンドンの装飾美術館にも展示されており、まさに作品的価値を感じさせる。価格は9,975円。さらにはイタリアの「ブリオンヴェガ(BRIONVEGA)」のポータブルラジオ。ブリオンヴェガ社は優れたデザイン性を持つ家電品を次々に世に送り出してきた会社で、このラジオは当時のイタリアを代表するデザイナーがデザインし、1965年に発売されたもの。近年、同時代のテレビと共に復刻版が発売されている。価格は36,750円。

それにつけても、いったい今なぜ過ぎ去った昔のモノであるラジオに惹かれるのだろうか。団塊の世代以上の年齢層の生活者にとっては、ラジオと向かい合って流れ出てくる音楽に胸をときめかせた青春時代へのノスタルジアがあり、そんなノスタルジアを形にして私的な空間において置きたい気持ちもあろう。あるいは、蒐集しておくに値する、時流を超えた歴史的名品であることも。このように、惹かれる理由はいくつも挙げることができるのだが、それは所有することを正当化するものであって、使用することと結びつくものではない。ラジオが非常時などに必要なツールであることはわかっているが、それに適したものは美的価値、作品的価値のある復刻版のポータブルラジオではない。また、空間に音楽を流し続けるにはCDプレーヤーなどの、より便利な代物がある。

本来の用途性を超えた装飾物としての価値。そんな着眼点で過去のモノを探索してみるのも意義のある時代である。それは飽食の時代における消費発掘の切り口でもある。





 

株式会社ツタガワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ