ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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2.28.2011
「シュアネス」〜消費観のキーワード

東京でもニューヨークでも「モンクレール(Moncler)」のダウンジャケットがこの冬のトップファッションブランドになった。これ、安いものではない。多くが10万円を超える高額品である。ちなみに、モンクレールは50年を超える歴史を持つフランスのダウンウエアのブランドである。広がるきっかけは1968年のグルノーブル冬季オリンピックでこれがフランス代表のオフィシャルウエアになったこと。そのトリコールカラーのダウンウエアはファッションとしての輝きを見せ、登山家に支持される一方でスキーリゾートにおけるファッションアイテムとして愛されるようになり、今日に至っている。

モンクレールは昨秋ニューヨークに初の直営旗艦店を開設している。

歳月のなかで揺らぐことなく永続している、今後も永続するだろうモノに強く惹かれる。モンクレールの人気はそのことを象徴する現象である。同様の注目事例には、防水コートのマッキントッシュ、トランクのグローブトロッター、ダッフルコートのグローバーオールといった英国の歴史ある王室御用達品になっているブランド、あるいはアメリカの高品質ウール素材のアウトドア衣料「ペンドルトン」や「ウールリッチ」などがある。いずれも「永遠の定番」と呼べる性格を持つモノである。この背後には今日の社会情況が要因となって潜んでいると考えられる。政治、経済、世界情勢含めて社会全体に混乱につながる不安要因を抱えている時代が続く中、生活者はどこかで秩序や、揺らぐことのない「確かさ=シュアネス」を希求している。そしてこの意識が、時流を超えて永続すると確信の持てるモノに目を向ける動きにつながるのである。

時流を超えて永続するということではプレッピー・スタイルを見逃せない。上流人志向を背景に2000年代半ばから表舞台に出てきてファッションとなっているスタイルであるが、これがここに来て「シュアネス」というキーワードと結びついて、トレンドとしてさらにパワーのあるものになろうとしている。ところで、このプレッピー・スタイルの基本原則(多岐にわたる)のひとつに「流行を超越した保守主義」がある。つまり、どの服も物性的寿命が尽きてボロボロになるまで着られること。流行遅れになるといった感性的寿命があってはならないのである。このように、プレッピー・スタイルの持つ精神は「シュアネス」を希求する消費姿勢と共鳴し合うものであり、なぜ今プレッピー・スタイルなのかがよく理解できる。そしてさらに付け加えるなら、プレッピー・スタイルは質素倹約を旨とするピューリタンの価値観と英国貴族の伝統的な生活観が投影されたものなのである。

モンクレールのジャケットを例に取れば、それが10万円を超える価格であっても、少なくとも10年は着られると考えればこれは意義のある買い物であり、エコライフを追究していくことからの「持続性=サスティナビリティ」への意識に応えることにもなる。それはまた、リーマン・ショック以降、安い買い物を飽きるほど体験した生活者が行き着く「聡明な消費」の意味でもある。






 

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