ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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11.23.2011
「ホームスパン」の時代〜質朴なモノに惹かれる

映画にもなったアメリカの人気テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」は、劇中に登場するモノが次々にヒット商品になるということで、マーケッターとしては目の離せない流行情報源になったが、そのひとつにカップケーキがある。これはアメリカでは昔からある馴染みの家庭的なスウィーツで、ニューヨークのグリニッチビレッジに古くからあるマグノリア・ベーカリーによるものが主人公の好物として取り上げられ、突如、「マグノリアのカップケーキ」が店の外に行列のできる大ヒット商品になったのである。以来、このベーカリーはミッドタウンにも出店するほどの繁盛ぶりで、同店のカップケーキは名品となり、今なお行列のできる状況が続いている。

マンハッタンのベーカリーで新たにウーピーパイ(whoopie pie)を打ち出す動きが見られる。上段左端がウーピーパイ。

家庭的スウィーツと言えば、もうひとつ人気になっているものにウーピーパイがある。これはもともとペンシルバニアのアーミッシュ(今も文明を拒否するキリスト教の一分派)の主婦が作り、メイン州に広がった地域限定の伝統的なお菓子で、円形の2枚の大きなチョコレートクッキーの間に生クリームをフィリングとしてはさんだ、いたってシンプルなものである。大きさは直径10pほどのものもあり、おやつ、あるいはデザートとしては結構な食べ応えのあるお菓子である。パイという名称がついているが、分類すれば、クッキーでもあり、ケーキでもあり、クッキーサンドウィッチでもある。

ニューヨークでこのウーピーパイがカップケーキの後を追うように突然取り上げられ、いくつかのベーカリーで企画され、販売され、関心を集めるものになっている。そのきっかけを作ったのがキッチンウエアのウイリアムズ・ソノマで、ここではバレンタインデイに、メイン州のベーカリーが地元産のバターとオーガニックの卵を使って作ったハート型のウーピーパイ(12個・49ドル)を同店のエクスクルーシヴ商品として展開したのである。また、マグノリア・ベーカリーもこれを展開しており、この人気店がウーピーパイの促進に大きな役割を果たしていることは間違いない。こうしてマンハッタンでは、伝統的な丸型のウーピーパイは、上質な食品スーパーで知られるトレーダー・ジョー(Trader Joe's)や、オーガニック食品のスーパーとしてファンの多いホールフーズ・マーケットのベーカリー売場でも打ち出されるアイテムになっている。

それにつけても、80年以上の歴史があるとされるお菓子に、なぜ、関心が集まるのか。その底流には消費生活全般に昔ながらのモノを見直していく動きがあることは間違いない。その背後要因として「サスティナビリティ」が社会的課題として意識されていることを見逃せない。いや、ウーピーパイに感じるのはそれだけではない。経済が低迷している状況が依然続いているという認識のもと、ニューヨーカーの多くが「質朴なモノ」に安らぎを覚えている時代である。そして、ウーピーパイはそんな気持ちをとらえるメッセージを持っている。考えてみれば、ウーピーパイを生み出したアーミッシュは衣服も含めて質素な生活を営んでおり、そのこととのつながりもあって、ウーピーパイは手作りを強調する外観と飾らない味覚が織り成す質朴さが特色になり、また、魅力になっているのである。

キーワードで整理してみると「ホームスパン(homespun)」の時代と言えるだろうか。ここでホームスパンが意味するのは「質朴」である。洗練を大切にする都市生活者が、洗練とは対極にある「垢抜けしない」モノに安らぎを求める。ウーピーパイはそのシンボルと言える食べモノなのである。小さな現象の背後に時代性の大きな潮流が読めるのだが、このウーピーパイ、マーケッターにいろいろなことを考えさせる興味深い素材である。






 

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