ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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2015年4月20日
アナログレコードが高感度アイテムに〜手間暇かかるモノ、コトに喜びを見出す

「アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)」(以下UOF)と言えば、アメリカの若いライフステージの都市生活者のライフスタイルストアとして高い人気を誇る店である。このUOFがマンハッタンに新たに開設した、5,700u、地階、1階、2階の3フロアで構成する巨大店が興味深い。展開商品は、通常のUOF同様に男女のファッション衣料、ファッション雑貨、ホームファーニシング、ビューティー&コスメが柱になっているのだが、この大型店では展開商品カテゴリーがさらに多様な広がりを見せており、ライフスタイルストアとしての間口をぐんと広げ、魅力が格段に向上した印象を受ける。


新たに展開されているカテゴリーには、アウトドアウエア&用品、ミュージックレコード、メガネ、コレクティブル雑貨、ブックス、カフェ、ヘアサロンなどがあり、興味深いのは、これらの多くが外部の専門店を導入する形をとっていることだ。例えば、カフェはシカゴの「インテリジェンシア・コーヒー(Intelligentsia Coffee)」、ヘアサロンはロサンゼルスの「ヘアロイン・サロン(Hairroin Salon)」といったぐあいに。このように、ファッションSCとしての店作りが注目に値するのであるが、加えて興味を惹くのが、様々なカテゴリーがオープンな環境で仕切りなく配置されていること。こうして境界なく異なるカテゴリーが常識的な関係性を超えて共存することでケミストリー(化学反応)が起き、ファッションの本質に通じるトキメキが生まれているのである。

この異なるカテゴリーミックスのなかで目を引くのがアナログレコードの店である。これはロサンゼルスなどに展開する世界最大規模のレコード店、「アメーバ・ミュージック(Amoeba Music)」を導入したもので、興味や好奇心に働きかけるものがある。ちなみに、アナログレコードなど死滅したのではないかと思われているかもしれないが、実は世界のレコードの売上高は2006年を底に回復基調にあり、レコードでアルバムを発売するアーティストも少なくないのである。また、音源はデジタルが当たり前の若いライフステージ層にとって、アナログレコードにはデジタルにはない、モノとしてのインパクトがあり、それは新しい出会いになって興味を刺激する。UOFではセレクトしたレコードを中心に構成し、合わせてレコードプレイヤー(中心価格は100ドル前後)も展開。

「アメーバ・ミュージック」の展開。プレーヤーも販売。

アナログレコードにはデジタルにはない、感性を刺激する何かがある。ポイントは、同じ曲をかけても、レコードは直接音を触っている感じがすること。実際、聞き取れない周波数も録音でき、音に厚みがある。加えて、管理の面倒さもCDなどデジタルが当たり前になると新鮮に感じられる。また、紙製のレコードジャケットにはアート性があり、感性に働きかけてくるものがある。アメリカではアナログレコードを『ビニール』と呼ぶが、こうしてみると、『ビニール』は感性を刺激する高感度なアイテムの性格を持っていると感じ取れる。即ち、先端を行くファッションアイテムと言えるのであり、特に若いライフステージを対象にするファッション業態では『ビニール』の展開が新しいトレンドになることを予感する。

それにつけても、文明的に遅れたモノが感度の面では先端を行くというのは面白い話であり、アナログレコードを見ていると、豆と焙煎にこだわり、ハンドドリップで淹れるサードウェイブコーヒーを思い浮かべる。両者に共通するのは、このところの、「ていねいなプロセスを楽しみ、大事にする」消費観が背後に感じられることだ。標準化され、マス化された文明のモノがあふれかえっている中で、手間暇かかるモノ、コトに喜びを見出すのである。消費意欲の刺激につながる「喜び」の発見が課題になる時代であるが、こんなところにも手がかりがあるということだ。




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