ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.6.2006
買い物の主語として「男」に注目しよう

蔦川敬亮です。この数年、私がずっと気に留めていることのひとつに「男の買い物」があります。かいつまんで言えば、暮らしのあらゆる局面で美的価値を大切にする男が増えてきているという実感がその根拠です。女と同様に、いやそれ以上に男も美的センスにこだわる。格好良く表現するならセンシティブ・ガイが消費を考えるうえで見逃せない勢力になってきているのです。例えば、センスのいい、優れたデザインの家具を魅力にするホームファーニシングブティックの目覚しい台頭と人気もそのことと密接な関係があります。

この一年、消費を考えるうえで男に着目することの重要性はぐんと高くなってきたと思います。そのきっかけを作ったのがクールビズです。これによってオンタイムで凍結されていたオシャレ心が一気に解凍され、そのことはオフタイムのオシャレを促進するといった効果ももたらしているように思います。また、クールビズで終わることなくウォームビズが続くことで、男がオシャレに熱心になることがオーソライズされ(百貨店などで催されるこの種のショウのモデルが普通のビジネスピープルというところがポイントです)、そうであることが常態化してきているのです。ちなみに、クールビズにはシャツという、わかりやすく、反応しやすいシンボルアイテムがありましたが、ウォームビズにはそれがありません。そのぶん多岐にわたっていろんなアイテムがあるわけで、ひとつ注文をつけるなら、百貨店は合言葉になるアイテムを各売場で意図的に設定して打ち出し、購買へのわかりやすい道筋をつけることを考えるべきでしょう。

それはさておき、男がオシャレに熱心になることがごく短期間で常態化しつつあるというのは注目に値することであり、今年はさらにそれが進行していくものと考えられます。なかでもその主役として期待されるのが、あのバブル期に青春時代を謳歌した、いわゆる新人類、アメリカでジェネレ−ションXと呼ばれる世代です。1960年代半ばから末にかけて生まれた人たちで、学生時代にラルフ・ローレンのポロシャツをこともなげに着こなしていたという経歴の持ち主です。そんな彼らが社会に出て、少なくともオンタイムのうえでは凍結してきたオシャレ心が今、解凍されてきているのです。そして熟年の域に達しつつある彼らがオシャレに熱心になることは上下の世代にも大きな影響を与えます。

実はこうした熟年になった新人類とこのところの熟年を意識したメンズファッション雑誌の人気とを重ね合わせてみることができます。例えばその種の雑誌の代表でもある「レオン」。ここが生み出した「ちょいモテオヤジ」は熟年新人類のオシャレ心を解凍する電子レンジのごとき威力があり、彼らが「そうありたい」と願う姿をずばり言い当てています。では、そうなるにはどうしたらいいのか。そのための術を教えてくれるのが「レオン」であり、この雑誌は即ち『熟年オシャレ・マニュアル』としての性格を持っています。言うまでもなく、新人類は彼女とのデートにもマニュアルを必要としたほどの『マニュアル世代』であり、それは歳を取っても変わることのない遺伝子になっているのです。このことはそれだけでマーケッターにとって考察に値する深いテーマへと発展するのですが、それもここではさておくことにしましょう。

さて、オシャレ意欲を復活させた熟年新人類はどこで買い物するのか。ユナイテッド・アローズやトゥモローランドは候補ですが、変化している体型にはきついでしょうね。そこでごく当然のように百貨店に目が向き、なかでも現在のところ最も満足できる解答の用意されている伊勢丹メンズ館に足を運ぶことになります。勿論、メンズの展開スペースの拡充、MDに新たな視点からの修正をすることで、すべての百貨店に彼らを顧客にできる可能性は十分に残っています。

振り返ってみると、百貨店の長期低落傾向は1992年春から始まったのですが、その当時、百貨店から多くの買い物を奪ったのが紳士服専門量販業態の青山です。これは、既存の業態から価値の明快な新たな業態へと買い物が流出するという業態間競争が明確になった、決定的な出来事ですが、その百貨店が昨年あたりからメンズファッションで元気になり、業績も向上してきています。実に感慨深いものがあります。

男がオシャレに熱心になれば百貨店に頻度高く積極的に足を運ぶ。熟年の男がそうなれば、奥さんである女も来る、奥さんもご主人のオシャレのために喜んで代理購買する。そうやって女の来店が増えれば買い物頻度や点数も増える。その結果として百貨店により多くのお金が落ちるようになる。今、百貨店はそんなサイクルを生み出しているのです。つまり、男の買い物は男だけの領域にとどまるものではなく、意外に大きな広がりを持つのです。そこに私が男に注目する理由があります。商売を成功させる秘訣は男にあり。というわけで、今年、私は昨年以上に男を念頭に置いて観察していくつもりです。





 

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