ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.23.2006
乳幼児をMDの重要な主語として意識する

蔦川敬亮です。ちょっと前のことですが、雑貨店のマディで「百日揃(ももかぞろえ)」なる商品を発見しました。「百日」とは赤ちゃんが誕生して百日目を意味しますが、この商品は赤ちゃんの誕生後百日前後に行う「お食い初め」で使用するための食器セットなのです。ちなみにお食い初めとは、一生食べ物に困らないように、といったことを祈願して行う昔ながらの慣習で、専用の小さなお膳に用意した赤飯やお吸物、尾頭付きの魚などを赤ちゃんに食べさせる(食べる真似をさせる)というのが一般的です。

マディの「百日揃」は5つの器と箸・箸置き、お膳が一揃いで桐の箱に納められており、価格は15,750円。写真のように、熨斗をかけて紅白の紐で結んだフィニッシングタッチもシャレています。昔からの慣習にならえば、お食い初めに用意するお膳や食器は塗り物になるようですが、それもその後の日常での活用を考えると問題があります。その点、マディの「百日揃」はよく考えられています。日本の伝統を汲み取りつつ、お膳や食器それぞれが普段の暮らしのなかでも使いやすいようにデザインされています。歳時を祝うにふさわしいものであって欲しいが、さりとて一度限りのものになっても困る。そんな現代の若い親たちの心をとらえる商品企画です。

それにつけても、若い親たちがお食い初めのような昔ながらの慣習を楽しむというのは意外に思えるのですが、この動きはしばらく前から始まっているもので、徐々に広がってきているように感じます。いや、お食い初めだけではありません。まずは安産を祈る帯祝いに始まり、生まれた後は、お七夜、お宮参り、初節句、初誕生日と、彼らは乳幼児にまつわるメモリアルイベントを次々に楽しんでいくようになっています。これらはかつてのように祖父母主導の義務的行事ではなく、親が積極的に、オシャレに楽しむ、一種のお祭りのようなものになっているのです。

この動きは、乳幼児のいる生活を美化しながら楽しもうとする、若い親たちの生活感を反映しています。であればこそ、マディのような、若い女性の支持を集めてきているシャレた雑貨店が「百日揃」のような商品を打ち出すことになるのです。つまり、品揃えのなかに乳幼児を主語にする要素が入り込んできており、描く家庭生活のシーンが、これまでは女性の一人暮らしやカップルであったものが、幼い子供のいるものへと変化してきているのです。言うまでもなく、若い親とは、ライフステージが子供をもうけるところまで進展してきた団塊ジュニアが中核になるものですが、これまた言うまでもなく、彼らこそがマディのようなシャレた雑貨店と忠誠心を持ったつき合いをしてきている顧客なのです。

シングル、カップルから乳幼児のいる段階へ。団塊ジュニアのライフステージの進展が、これまで彼らがつき合ってきた店のMDに変化をもたらしたとしてもおかしくはありません。この視点を持って店を観察してみると面白いですね。アフタヌーンティー、シボネ、イデーショップ、さらにはビームスあたりも含めて、団塊ジュニアたちが独身時代から親しみ、御用達としてつき合ってきている生活雑貨やホームファーニシングやファッションの店が、新たに乳幼児を主語にするMDと取り組み始めていることに気づきます。団塊ジュニアのライフステージの進展と歩調を合わせて、品揃えの領域を拡大してみようじゃないか。そんな姿勢が感じられるのです。

この数年、じわじわと拡大してきている見逃せない動きに、乳幼児にまつわるものを質的に、美的に洗い直すことがあります。オモチャひとつをとっても、知育への能書きや審美性が気になります。この動きは子供のいる生活を美化しながら楽しむ生活観と結びついてさらに大きくなろうとしています。親を刺激し啓発する乳幼児を主語にするMD。先回は男の買い物を取り上げましたが、ここにも今年注目していきたいテーマがあります。





 

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