ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

6.12.2006
新しい価値を持ち始めたホームパーティー販売

蔦川敬亮です。今さら言うまでもないことですが、買い物をする場合、店に出かけて買うか、家で居ながらにして買うか、大別して二つの選択肢のある時代です。そこでそれぞれの選択肢に問われているのが存在価値であり、特にこのことは存在することが当然のように思われてきている店なるものに強く問われているのです。時間と体力を費やして出かけるに値する店であるにはどうすればいいのか。この点に答えを出し続けていくことが永続する小売店の条件になっている時代なのです。

さて、家で居ながらにして買える無店舗販売と言えば、今は反射的にネット通販のことを思い浮かべますが、アメリカでは、アナログの極みとも言える、古くからの販売方法であるホームパーティー販売が、再び徐々に勢力を拡大してきているのが注目されます。この販売方法で有名なのが化粧品のエイボンや家庭用品のタッパーウエアですが、アメリカのダイレクト販売協会(DSA)によると、大幅に伸びているダイレクト販売に占めるホームパーティー販売の比率は30%になるそうです。

それにつけても、女性が仕事を持つことが常識になっている、家庭において主婦不在が当然の時代にあってホームパーティー販売が活発になってくるというのは興味深い動きです。実際、1950年代にこの販売方法で台頭したタッパーウエアも、女性の社会進出が進むにつれ、時間を割かねばならないこの販売方法が障害になり、成長に陰りがみられるようになりました。ところが90年代に入ったあたりから再度注目の存在へと転じてきます。勿論、製品のデザイン面や機能面における格段の進化、ホームパーティーを開きがいのあるものにする製品ラインアップの大幅な拡大(例えば教育的オモチャなども)といった点が重要な要因なのですが、一方で、その独自の販売方法が時代の移り変わりのなかで意味を持ち始めたことも基本要因として見逃せないのです。

多忙な生活者には不向きなはずのホームパーティー販売が、なぜ、逆に歓迎されるものになってくるのでしょうか。その理由はこれが気軽な社交の楽しさをもたらしてくれる点にあると見ることができます。つまり、働くことが友人や知人、さらには近所とのつきあいといった、ささやかな社交の機会を減少させるなかで、ホームパーティーはそういった機会を創造するきっかけを与えてくれるものとして評価されるようになっているのです。このようにホームパーティーは生活の中に欠落していた「人と集い、つながりを持つ」という部分を満たす価値を持つのです。

アメリカのホームパーティー販売の成功事例としてひとつ紹介しておきたいのが高級婦人服の「カーライル・コレクション」です。ここはコンサルタントと呼ばれる女性たちが、自宅で、ゲストをもてなすように手作りのサービスを提供しつつ、親密な雰囲気の中で顧客にサンプルを見せて試着してもらう方法をとっています。商品はオン・オフ両面にわたって、質の高い素材によるクラシックエレガンスのテイストで企画されており、客は気に入れば年間必要とするワードローブのほとんどをここで調達できます。なお、コンサルタントになる女性は、スタイリストとしての資質を持つことと同時に、その地域社会における活動家であることを条件に選ばれ、カーライル側の提供する、研修会を含む継続的なトレーニングによってその能力を高めていきます。コンサルタントのなかには年収10万ドル近い人も少なくないと聞きます。

こうしたホームパーティー販売の効用に着目し、新たにこれをマーケティングに取り込んでいるのが自然化粧品のボディショップです。ここでは「ボディショップ・アットホーム」と名付けたホームパーティー販売を推進しており、2001年にわずか3州、4名で始めたものが、今や全米50州で壮大な数のコンサルタントが活躍する規模にまで広がってきています。エイボンの例を持ち出すまでもなく、特に化粧品やトイレタリーのような消耗品についてホームパーティー販売は威力を発揮します。加えて、親密な雰囲気の中で新製品を試させるなど、宣伝上の効果も期待できます。

ひるがえって、現代生活者は、初対面の人も含めて、様々な人と集い、体温の感じられる交流のできる溜り場を求めています。それは欲得を抜きにした社交とも言えるもので、仕事で発生する社交とは対極の位置にあるものです。特にこの種の欲得抜きの社交への欲求は、女性の間で上昇志向して働く生き方が定着するにつれ高まってきているように思われます。ホームパーティーという古い販売方法はこうしたなかで新しい価値を持ち始めたのです。このことは今の日本にもあてはめてみることができるのでないでしょうか。





 

株式会社ツタガワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ