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10.5.2006
駅にライフスタイルセンターが成立する〜成城コルティに考える

蔦川敬亮です。駅ナカの開発も刺激剤になって、改めて駅立地の商業施設の持つ可能性が注目されている時代です。わざわざ行きたくなる内容の商業施設を、ついでに立ち寄れる行動径路上の便利なところに創る。これが駅立地のさらなる可能性を掘り起こす視点だと思うのですが、駅ナカの事例も含めて、ここのところ駅立地に新たに開発される、あるいはリニューアルされる商業施設にはこの視点に沿う取り組みを感じ取ることができます。また、出店する側でもこの動きと歩調を合わせ、郊外立地の商業施設に目を向ける一方で、駅立地でこそ訴求力を発揮できる出店フォーマットの開発が活発になってきています。こうして生活者のほうにも「駅はいい買い物のできるところ」というイメージが醸成されてきているように感じます。

さて、駅立地と一口に言うものの、そこにはそれぞれの性格や特性があります。出店に際してはこれをいくつもの尺度で分類してとらえることが重要なのですが、それはさておき、9月末に小田急線・成城学園駅上に開業したSC、成城コルティは、郊外の裕福な住宅地(幼稚園から大学までの成城学園のある文教地区でもある)にある駅という性格を踏まえた興味深い事例だと思います。ちなみに、小田急電鉄の開発したこのSCは、1階から4階までの4フロア(駅改札口は1階、ホームは地階)、延べ床面積16,900・、36店舗で構成するもので、線路の上の空間であることから細長い形状をしています。

成城コルティを歩いてみると、「乳幼児のいる家庭にとっての利用価値」を特性のひとつとして意図していることに気づきます。そのシンボルになっているのが「子育てステーション」と名付けたゾーンで、ここには保育園(月極保育に加えて一時保育も)、この保育園による遊びの広場があります。また、このゾーンに隣接して児童向け英会話スクールがあり、同じフロアに設けられたクリニック・ゾーンの中には小児科クリニックも導入されています。さらに4階にある料理教室のABCクッキングスタジオには子供向けの教室のABCキッズ(当サイト、本年3月1日号参照)も併設されています。一方、物販に目を向けると、母と子の高感度なファッション衣料を展開する店が2軒あります。

言うまでもなく、駅立地のSCが狙いたいのは、路線利用者を物販やサービスの顧客にすることです。しかし、成城コルティの提供する「乳幼児のいる家庭にとっての利用価値」には、保育園のように夫婦共に働いている路線利用者をとらえるものもありますが、それ以外で路線利用につながるもの、つまり、駅にあるからありがたいというものはありません。そして実はそこに成城コルティの興味深いポイントがあるのです。ここは駅立地でありながら路線利用者を相手にする施設を創るのではなく、成城学園駅という、わかりやすく、行きやすいところに、成城に住む人々が集まる施設を創り出しているように思えるのです。この場合、駅は、その地域に住む人々が集まりやすい、地域社会の核として機能できる可能性を持っていると考えてみることができるのです。

成城コルティ。壮大な吹き抜けが気持ちのいい環境をもたらしている。

そう考えてみると成城コルティは成城に住む人々が集まる施設としてよくできています。まず、壮大な吹き抜けを生かした、屋根は付いているが気持ちのいい外気の流れる、十分にゆとりのある空間。その空間感覚にふさわしい巨大なテラス風の環境。最上階の4階、東西の両エンドに設けられた、眺望も楽しめる庭園。駅にイメージする雑踏とは無縁の、散歩をしたくなる街路。加えて上質の食事を楽しめるレストランがゾーンを構成し、大型の書店、CD・DVD・楽譜の店などのカルチャー系の店も。ゆったりと、いい時間を過ごしたいという気持ちにさせる魅力があります。また、日常生活に密着したものとして、洗練されたホームファーニシングブティックやインテリア雑貨の店もあり、そして帰りがけには食品スーパー、上質な惣菜専門店・洋菓子店・ベーカリーに立ち寄って、その日の食卓のための買い物をすることができます。また、駅のすぐそばに以前からある高級食品スーパーの成城石井本店は、この点での相乗効果を発揮する存在になっています。

こうしてみると、成城コルティはライフスタイルセンターの性格を持っていることに気づきます。ライフスタイルセンターについては当サイトの参考小売事例にアップしてありますので参照いただきたいのですが、その特質は「地域住民が心地よく過ごせることを価値にする『商業性内蔵型』施設」にあり、アメリカでは比較的裕福な生活者の住む地域に誕生してきています。成城コルティは、スケールは異なりますが、環境やテナントミックスのあり方でアメリカのライフスタイルセンターと共通するものがあります。ともあれ、日本では郊外の裕福な住宅地の駅にライフスタイルセンターが成立する。駅立地にはそんな可能性もあるということで成城コルティは考えさせられる事例なのです。





 

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