ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.1.2007
スウィングする店やSCは強い

蔦川敬亮です。1月1日号をうたいながら年末の話をするのも気が引けるものですが、年の瀬の伊勢丹新宿店を歩いていて興味をそそられる売場に出会いました。「スウィート・メメント(Sweet Memento)」と題する、2階に設けられた期間限定売場です。ギャラリー風に構成された売場の主語になっているのは、今注目のファッションジュエリーブランドである「e.m.」で、ここにはこのブランドを大々的にクローズアップする狙いがあるように思われます(伊勢丹新宿店は1階アクセサリー売場で「e.m.」を逸早く取り上げてきています)。ちなみに「e.m.」は、遊び心の利いた独自のデザインで、先端を行く美意識を持ち、しかも洗練度の高い人たちの注目を集めているクリエイター系ブランドです。

主語になっているのは「e.m.」ですが、興味をそそられたポイントは、パティシエの辻口博啓さん、MUSUBI(様々なアートワークを手がけるクリエイター、青木むすび)といった他の分野のクリエイターとのコラボレーションによって、この売場にしかない、つまり、伊勢丹新宿店限定のギフト商品を提案していることにあります。具体的には、写真のように辻口さんの作るコンフィチュールの容器に「e.m.」のチャームをアレンジする、MUSUBIによるアートフラワーアレンジメントに「e.m.」のリングを取り合わせる、といったぐあいに。こうしてみると「スウィート・メメント」の意味がよくわかってくるのですが、クリスマスや正月の集まりにこんなものを持参して驚かせるのも面白いかなという気持ちになります。また、比較的買いやすい価格帯のものが多いことも、そんな気持ちを即購買へと導く力になります。

辻口博啓のコンフィチュール×「e.m.」のチャーム。2,100円。

ここはクリスマス直前から歳末近くにかけての十日間の展開ですが、買わないまでも、見るだけでも楽しい売場です。つまり、ひとつの出し物として、来店を動機づける、あるいは来店客の心をときめかせることに貢献しています。私は、これまでにない新しさや、より高度なセンスに目覚めさせる提案よって顧客に働きかけ、購買を掘り起こす百貨店やSC(ショッピングセンター)は「モノで創造するショウビジネス」を心がけるべきだと考えておりますが、それは商品を主役に売場を出し物としてとらえることでもあります。そしてその出し物が次々に変化していくこと。これによってショウビジネスが成立し、その百貨店やSCは楽しめる場所、絶えず行ってみたい場所になります。

変化する出し物を創造する手法はいくつも考えられますが、そのひとつがそれぞれの売場がその時々のクローズアップ商品を設定し、これを視覚に訴えるようプレゼンテーションすることです。これを『上演計画』に沿って短いサイクルで変化させることで(実はごく一部しか変化していないにもかかわらず)店全体が絶えず変化しているように感じられ、顧客は頻度高く店に足を運ぶ価値を見出します。

もうひとつの有力な手法が店内に複数個所、期間限定の売場を開発し、やはり『上演計画』に沿って期間限定の出し物を連続して仕掛けていくことです。私はこうした期間限定の売場や店のことを、揺れ動くように短い期間で変化していくことから「スウィングショップ」と呼んでおり、冒頭に取り上げた「スウィート・メメント」はその一例です。スウィングショップのなかには、例えば夏にゆかた売場を臨時に創出するように、購買期間の限られているシーズンやモチベーションに即したMDも含まれますが、それは毎年その時期に恒例のものであって、スウィングショップの本質に迫るものではありません。スウィングショップの出し物としての真骨頂は、永続性に確信の持てないファッドで終わるかもしれない新しいものや旬の興奮のあるもの、他では見つけられない、しかし短期間であれば実現可能な、斬新で発見価値のあるものを取り上げることにあります。要は顧客に、「今日この機会を逃せば二度と出会うことはないだろう、だから買わなきゃ」という気持ちにさせる力を持つことです。特にファッションカテゴリーや食料品のなかにはこの趣旨にかなうネタが多く潜んでいると思います。

店側で自由に裁量できる区画を設けやすい百貨店はともかく、SCでスウィングショップを開発し、変化させながら運営することはきわめて難しいという声もあるでしょう。しかし、渋谷パルコやエチカ表参道のように、これを組み込んだ構成をとる例も見られます。また、ワゴンや仮設売場の活用という手もあります。特にワゴンは一種のスウィングショップであり、そうとらえたうえでワゴンのミックスと年間の『上演計画』にしっかりとした考えを持つSCは強いように思います。いや、SCにおいては、そういった手法以外に、毎年かなりの比率でテナントを入れ替えていくやり方もあります。上記のスウィングショップの本質に沿うものではありませんが、SC全体がスウィングすることで出し物としての魅力を維持していくことができます。新宿ルミネはその好例でしょう。

「スウィングする」ことの重要度が年々増してきていることを実感します。同時に、スウィングする店やSCの繁盛の度合いが高まってきていることも実感します。考えてみてください。誰もがたいていのモノは持っている時代なのです。ショウビジネスで気持ちを高ぶらせてこそ購買は引き出せるのです。需要への「対応」ではなく、「提案」によって需要を創造することの意義を年の初めにあたって考えてみたいものです。





 

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