ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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10.10.2007
「家事の外注」を引き出す『イージーライフ・ビジネス』

蔦川敬亮です。女性が働くことが常識になり、働くことに優先的に時間を割き、一日、一週間の計画を立てる時代です。とりわけ上昇志向して働く女性の場合は、働くことで割かねばならないのは時間だけではありません。結果的に気持ちや体力も割いてしまうことになります。

こうしてみると、家庭を持つ女性の場合はいわゆる専業主婦が少なくなり、単身暮らしの女性の場合は、家事労働に割ける時間、気持ち、体力は限定的なものになってきています。しかも、週末などの自由になる時間は、趣味や遊びや夫婦のコミュニケーション、友人とのつき合いに優先的に消費したいと思います。それはつまり、家事労働を持て余し、それをやり遂げることに大きな悩みを抱えている時代と言えます。一方、生活者の悩みは商機でもあります。「ソリューション」や「ヘルプ」はいつの時代もビジネス開発の視点になりますが、世の中を見渡してみると、新しいソリューション・ビジネス、ヘルプ・ビジネスが頭をもたげてきていることに気づくのです。

例えばハウスクリーニング・サービス。ほんの数年前までは利用者は富裕層であると思われていましたが、わかりやすく、手の届く料金設定もあってその浸透ぶりには目をみはるものがあります。また、こうした家事雑事代行サービスのメニューは、掃除にとどまらず、クリーニング出し・受け取り、ペットの散歩、買い物、料理の下ごしらえ、洗濯・アイロン掛けなどへと広がっています。新しいものでは、下着や靴下などを含む日常の洗濯物の代行サービスもあります。これは東京の住宅街のコインランドリーが手がけるもので、洗濯物の集荷、洗濯、折り畳み、配送までを一貫して行います。勿論、女性物の扱いにも十分な配慮がなされ、当初、顧客は独身男性と想定していたのですが、実際には20代、30代の若い共働き世帯が多いと言います。

キャリアウーマン(上昇志向して働く女性)とトゥーキャリアカップルズ(共に上昇志向して働く夫婦)の存在が、日本でもようやく大都市部を中心に顕在化し、社会のあり方や消費そのものに巨大な影響力を発揮する時代が訪れています。ニューヨークと比較すると四半世紀のタイムラグがありますが、少なくとも東京のような大都市部では当時と同じような情況が見られるようになっています。実際、東京では1980年代初めから半ばにかけてのニューヨークをなぞるような動きがいくつも見られ、家事雑事の外注などはその典型的な動きのひとつと言えるのです。

80年代初めのニューヨークでは、何にしても多忙であることは、活気にあふれた、充実したバイタリティーある生活を構築していることの証明でした。だから、今でこそ当たり前になったシステム手帳のファイロファックスがクローズアップされ、大ヒット商品になったのです。つまり、女性にしても、スケジュール帳が隙間もないほど黒々と埋め尽くされていることは充実した暮らしを実感させるものだったのです。そうしてそれまでの行動のすべてが洗い直され、自分の時間の枠の中に組み入れるものと、そうでないものとが区別され、その結果はみ出してきたものが、それまでの概念で言うところの家事だったのです。

さて、家事の外注は、多忙であるという大義名分があるがゆえに、女性にとって罪悪感を抱くものではなく、むしろ賢明な生活手段となります。そして、興味深いことに、これを一度何らかの形で体験すると、そのありがたさにとり憑かれます。つまり、この種のサービスの利用が常態化し、利用サービスメニューが広がっていくのです。そこには多忙を超えて、ラクができるという別の動機が見えてきます。およそ世の中の商品やサービスについて、売れる、繁盛するということではこれに勝る動機はありません。それはソリューション・ビジネス、ヘルプ・ビジネスを超えて、『イージーライフ・ビジネス』の一面を持っているのです。

「家事の外注」という視点を持ってここ10年を振り返ってみると、このことが改めて新たな巨大市場を生み出していることに気づきます。その代表が惣菜や弁当など中食と呼ばれるものです。美味しいものは食べたし、さりとて料理を作る時間や体力もなし。実は隠れた要因として「料理を作る腕もなし」があることも忘れてはならないのですが、それはさておき、だからこそデパ地下でもこの種の中食の充実が顧客獲得の大きなポイントになるのです。そして、この中食促進の次なる鍵になってきているのが、さらなる時間と体力の節約につながるデリバリーサービスです。いや、デリバリーサービスは、既に夜間のクリーニング集荷サービスがもはや常識の時代になりつつあるように、様々な分野に広がり、購買価値、利用価値として重要な意味を持つものになっていくと考えられます。

現代の都市生活者にとって、「時間」ほど貴重な「財産」はありません。そう考えてみると、家事の外注に関連する市場の奥は深いですね。





 

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