ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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5.11.2009
質での満足が次の購買を創る〜安さや値頃感追求の大合唱のなかで

このGWの原宿の人出は凄かったですね。連日、原宿駅のそばにある竹下通りが人で埋め尽くされており、この状態が明治通りの歩道へと続いているのです。この人出のデスティネーションになったのが4月29日にオープンしたフォーエバー21です。H&Mがオープンした昨年の11月にも同様の状態が見られたのですが、人出の量の全体的印象、入店までの待ち時間の長さからすると、今回はそれをはるかに超えているように思われます。そう言えば同じこの時期に入店待ちの長い行列ができた店に、タレントでもある田中義剛さんが経営する花畑牧場による飲食業態、「花畑牧場カフェ 生キャラメル&アイスクリーム」と「花畑牧場 ホエー豚亭」(いずれも南青山)があります。

両店に共通しているのは、メディアで頻繁に取り上げられることで生み出された話題性です。生活者が「出かける先探し」をしている風潮を察知してのことでしょう、近年、特にテレビが新しく開業する店や商業施設を取り上げる例が増えてきており、それに伴い、小売りにまつわるスポットが新しい観光地として話題消費の対象になっています。そして、フォーエバー21や花畑牧場による2つの飲食業態はそういった意味での出かける先になっているように思われるのです。消費大低迷の時代にあっても、話題を体験することには出費を惜しまないものだ。そんなことを再認識するのですが、話題消費にはひとつ留意点があります。それは「行ってみた」ことによって多くの場合、消費は完了するということです。つまり、この場合の客は観光体験型の一見客ということになるわけで、この点を踏まえておくことが以後の成長を考えるうえでの重要なポイントになります。

さて、フォーエバー21の登場で明治通り沿いの原宿界隈が「ファストファッションの街」と呼ばれるようになってきています。フォーエバー21をはじめ、H&M、ギャップ、ザラ、トップショップ/トップマン、ユニクロが街を構成する店とされているようですが、これはとても乱暴な話です。漠然と「安い」ということでひとくくりにしているのでしょうが、例えばH&Mとギャップでは買い物価値が異なるわけで、これはこれらの店を見たことのない、買い物したことのない人の分類です。ファストファッション店は、新しいもの好きな若い女性を刺激する企画を、『使い捨てファッション』に合致する価格で素早く投入し、これを絶えず更新し続ける店、と説明できますが、ここに込められた価値を提供できているのはフォーエバー21とH&Mの一部だけでしょう。なお、ついでに忘れてはならないのが、日本におけるファストファッションの調達場所としては渋谷109が老舗であることです。

ここに来て、ファッションアイテムからデパ地下の弁当まで「ワンコイン(500円)」企画がいろいろと目につくようになってきました。このことにも汲み取れるように、価格で刺激を与えれば購買が喚起できることを信じた取り組みが一気に広がってきています。となると、生活者にとっては「いろいろと安いモノを買ってみること」が話題消費を楽しむことへと発展していきます。生活防衛だの節約だのといったシリアスな一面を超えて、安いモノを買ってみることが遊びになり、さらには流行になっていくのであり、今日の情況はまさにそうではないかと思うのです。価格価値刺激型企画と取り組むにあたってはこのことを頭に入れておく必要があります。

ところで、安さや値頃感追求の大合唱のなかで言っておきたいことがあります。生活者は、最初は長所に目を奪われますが、そのうち短所が気になるようになります。短所が気になるとつき合いは永続しません。これを、長所を「安さ」、短所を「質」に置き換えて考えてみてください。つまり、安さだけでリピート購買を創出することは難しいということです。特に日本人生活者は最終的に質で満足しなければつき合いを絶ってしまいます。それは日本人の生活文化に根ざす価値判断であり、日米の生活者の消費観を40年近く比較考察してきた立場から言えることでもあります。使い捨てを自覚しているファストファッションであっても、一度や二度の洗濯で着る気にならなくなったら、次の購買はありません。

ファストファッションとするのは不適切ですが、ユニクロの強さは安さと質を両立させ、日本人生活者と長いつき合いができているところにあります。このことを今一度認識しつつ、安さや値頃感といった喉越しの良さだけを考えた企画が一時的な話題消費を生み出すことはできても、長いつき合いの創造にはならないことを肝に銘じたいものです。





 

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