ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

9.3.2009
ファッションに新しい創造性を〜渋谷パルコの『コムデギャルソン村』に考えること

婦人服にも紳士服にも言えることですが、新しい創造性に触れる楽しさを期待できない時代になっていると思います。何年も前から感じていることですが、これはデザイナーブランドについても言えることです。そしてこうしたなか、特に、新しい提案のない百貨店は見事なまでに退屈なものになっています。ブランド名を耳にすれば予測のつくものばかりで、ならば用のある時だけのぞいてみればいいのです。一方、話題になっているファストファッションの店や成長していると言われるファッション店を見ても、並んでいるのは、『客にアンケートをとってみて着たい服を作りました』的な対応型のものばかりで、そこにファッションとしての本来の輝きがありません。

というわけで、新しい創造性の欠落を嘆いているのですが、そこにちょっと希望を感じさせてくれるのが、渋谷パルコパート1の1階に出現した、「ブラック・コムデギャルソン」を核に複数のMDゾーンで構成する、展開期間が1年半の『コムデギャルソン村』です。エントランスを入ってすぐのところに広がるこの複合型ショップは面積165u。6月の初めに「ブラック・コムデギャルソン」だけでオープンした時には、パーティションを複雑に組み合わせた迷路のような店内に驚きましたが、その後、パーティションが開いて新たなゾーンが顔を見せています。

ちなみにショップは4つのゾーンで構成されています。コムデギャルソンの象徴的カラーであるブラックをテーマにする「ブラック・コムデギャルソン」、コムデギャルソンのデザイナーの一人、渡辺淳弥さんによる「アイ・コムデギャルソン・ジュンヤワタナベ・マン」、「コムデギャルソン・シャツ」、「プレイ・コムデギャルソン」と香水などで構成する「コムデギャルソン・ポケット」です。この『コムデギャルソン村』の特色は、いずれにもコムデギャルソンならではの創造性があり、しかも買いやすい価格設定になっていることです。実際、「ブラック・コムデギャルソン」を見れば、ジャケットが3万円前後、ドット柄ハンドプリントTシャツが14,000円、Tシャツが5,985円、チェッカー柄の半袖ニットが17,325円といったぐあいに、コムデギャルソンの『普及ライン』という印象です。

渋谷パルコでのコムデギャルソンによる複合型ショップの展開。

店の環境にも感性に働きかけてくるものがあります。無造作に流したコンクリートの床、これまた無造作に仮囲いのように立てた塀、鉄骨を組み合わせた仮設の足場のようなハンガー什器などに表現されるように、ショップ全体の環境デザインは工事中をイメージさせるものです。それは期間限定ゆえの造作でしょうが、ファッションの本質である「変化」のメッセージも込められているようにも思えるのです。いや、そこには、ニューヨークでのソーホーでの出店、さらにはソーホーからチェルシー地区への移転の際にも示された、「研ぎ澄まされた斬新な感性は、それとは対極にある、猥雑な、あるいは荒れた環境の中でこそ雄弁になる」というコムデギャルソンの思いの表現と受け止めることもできます。

デザイナーの新しい創造性を買える価格で打ち出し、より多くの生活者に(コムデギャルソンのコアな固定客だけでなく)デザイナーの創造性との出会いの機会を提供したい、そうやってファッション本来の魅力を感じてもらいたい。渋谷パルコの『コムデギャルソン村』には、今日のファッションに対する川久保玲さんをはじめとするコムデギャルソンなりの危機感のメッセージが込められているような気がしてなりません。そしてこのショップが1年半の期間限定であると聞くと、よけいその思いを強くします。

冒頭で嘆いたように、このところどのファッション小売り業態も「売れる」ものへの対応に躍起になり、新しいファッションを創造し提案することへの志を失っているように思います。そんななか、ひとつだけ例外と呼べるのが渋谷パルコ、それもパート1です。この館のテナントミックスには、売れるものに対応するのではなく、提案することで購買を創造する、ファッション小売り本来の気迫がみなぎっています。それは渋谷パルコ開業時の特性でもあったのですが、今その遺伝子がしっかりと受け継がれていることを実感します。1970年代、ストリートウォッチング、ストアウォッチングの最重要ポイントを公園通りとパルコに定めていた時代を懐かしく思い出します。





 

株式会社ツタガワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ