ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

4.22.2010
男性を主語に性差を超えること〜新たなトレンドの源泉

若者研究所として創業以来、今年、私どもの会社は40周年を迎えます。「異議申し立ての世代」(いわゆる団塊の世代を核にする)が若者として社会的影響力を持つと同時に、若者市場を形成して消費市場の勢力になりつつあることに着目したのが始まりで、以来、東京とニューヨークでのフィールドワークをベースに、ライフスタイルやアティテュード(生活姿勢)と需要創造・購買創造をテーマにする様々な活動を続けてきております。1970年当時、生活者視点に徹してものを言うような仕事をする会社は他になかったので、ずいぶんいろいろなメディアで取り上げてもらったものです。ただ、その割にはなかなか仕事に結びつかず、苦戦しましたが・・・・。

ところで、私どもがフィールドワークで心がけていることのひとつに「新たなトレンド(潮流)」の発掘があります。それは新たな流れになる源泉を探し出すことであり、「明日、常識になるだろう今日の非常識探し」と言い換えることもできます。非常識なモノ、コト、行いは「突出した新しさ」と言い換えてもよいのですが、この種のものがすべて常識になるわけではありません。少数派の間にとどまって絶えていくものが大半です。しかし、なかには常識化するものもあり、従って、人々の様々な自己表現を通して非常識という兆しに目配りしておくことには重要な意味があるのです。

非常識が常識になる例を数多く生み出すようになったのが、若者だった「異議申し立ての世代」なのです。いや、そもそも、既成の常識に対して非常識と言える異議申し立てをするからこそ、こうした世代名を付けたいのです。その彼らの間から湧き出た非常識として見逃せないのがジェンダー(社会的性別)に関連するもので、性別に対する社会の一般通念にとらわれず行動することが新たな常識を作り上げていきました。そして、20世紀末までの30年間、その主語になったのが社会的地位の向上を目指す女性です。風俗の面では、それは着るものに男女の区別はないとする考え方になり、画期的な動きをもたらします。ユニセックスという概念の登場もそのひとつです。

さて、20世紀に女性が主語になったのに対して、21世紀には、性別に対する社会の一般通念にとらわれず行動する主語が男性になり、そこからやがて常識になるだろう非常識が芽生えてきています。例えば、今世紀に入って台頭してきたメトロセクシャル、即ち、内在する女性的側面を意識し、それと熱心に取り組もうとしている男性たち(同性愛者ではない)。彼らは女性に固有のものとされてきた「美しくなる」ことに熱心で、その性差を超えた姿勢がスキンケアをはじめとするコスメを男の領域のものにしてきています。あるいは、「カワイイ男の子」を表現したがる男性たちの台頭も。「カワイイ」という感受性はもはや女性に特有のものではなく、特に若い男性の間にも根を下ろしつつあり、これをとらえるように『カワイイ男の子ファッション』ブランドが登場してきています。

男性が性別に対する社会の一般通念にとらわれず行動することから生まれる非常識。そのことを痛感させる最新の動きがスカートを着こなすことです。青山・渋谷・原宿界隈あたりで時々見かけるのですが、その姿は、毛脛丸出しのような、ひとつ間違うと周囲に不快感を与えるようなものではありません。いずれもスカートの丈はくるぶし近くまでの長さで、コスチューム遊びや女装を楽しむのではなく、正面からスカートを着こなそうという意志を感じるものです。ちなみに、女装とは、女性固有のものだと考えるアイテムを身に着けることですが、今街で見かけるスカート姿には、そうではなく、スカートは女性固有のものではないという考えから出発していることを感じ取れるものです。なお参考までに、メンズスカートを提案している有力店にコムデギャルソン青山店があります。

原宿のメンズファッション専門店でのスカートの提案。

そう言えば、スカートとならんで男性のものになろうとしているということで注目しておきたいのがスパッツ、そしてレギンスです。カラフルな色柄のスパッツは短パンとの組み合わせでメンズカジュアルの新しいスタイルとして一気に広がると考えられますが、このアイテムは男性にとってスカートをより身近なものにするということでも要注目です。つまり、スパッツやレギンスには男性がスカートを穿くことで生まれがちな見た目の不快感を中和する持ち味があり、それゆえ、スパッツ&スカートの着こなしは男性のスカート姿の常識化の促進に貢献するものと予測できるのです。同時に、スパッツを得ることで、メンズスカートにも様々な丈、デザイン性のものが登場してくることになると考えられます。

男性が性別に対する社会の一般通念にとらわれず行動することが、20世紀には見られなかった新しい風俗を生み出そうとしています。こういったところからメンズファッションは勿論、風俗全般に新しい流れが生まれてくることは間違いありません。





 

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