ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.17.2011
「市」〜原点的な商売のスタイルには人をワクワクさせる力がある

「市」のスタイルで都会の生活者と地方の農業生産者を結ぶ催しが近年活発化している。このなかから、東京の代々木公園で月1回、日曜日に開催される東京朝市アースデイマーケット、毎週末、東京・青山の国連大学前広場で開かれるファーマーズマーケット、毎週土曜日に開催される赤坂アークヒルズのヒルズマルシェのような成功例が生まれてきている。その魅力は産直市場として旬の元気な野菜が主役になっていることにある。一般市場には出回らない野菜、完全無農薬野菜を特色にするもの、全国津々浦々を訪ね歩いて契約した農家から届けられる、その時期一番おいしく、栄養価の高い野菜といったぐあいに。また、アークヒルズでは、そこに店を構えるトゥーランドット游仙境、アークヒルズカフェ、オーバカナルなどの飲食店も屋台を出して参加しており、飲食の楽しみもある。

東京・青山の国連大学前広場で開かれるファーマーズ
マーケット。
賑わいを見せる「ヒルズマルシェ」(赤坂アークヒルズ)。

こうした市に出かけてみて感じるのは、素朴ながらぬくもりにあふれ、猥雑ながら躍動感があり、予想を裏切る面白さがあるということだ。屋台や市という原点的な商売のスタイルには人をワクワクさせる力があることに気づくのである。そのことは去るクリスマス時期、いくつかの商業施設でいつにも増してクリスマスマーケットとしっかりと取り組む動きが見られたことにも読み取ることができる。例えば、既にこれを名所にしてきている六本木ヒルズのそれや、東京国際フォーラムでの、フランスの北東部のアルザス地方にある都市ストラスブールと提携して構成する「ストラスブールのマルシェ・ド・ノエル」、さらには、ドイツ・スタイルによる横浜赤レンガ倉庫など。「のぞいて歩く楽しみ、飲食での発見の楽しみ」という、まさに市に期待する要素を満喫でき、そこには期間中に何度も足を運びたいという気持ちにさせる力がある。なお、これらのクリスマスマーケットはいずれも集客装置として貢献していることを実感させた。

市にはそぞろ歩きの面白さがあり、予期せぬ掘り出し物と出会う楽しさがある。買い物以前に、身近にできる『小さな旅』としての喜びや高揚感がある。よくできた市は今、生活者にとって最も出かけたい先であり、時間を消費するに値する目的地になっている。このように、期間限定で立つ市がほぼ例外なく人気になり、生活者が興味を示す動きは、現代の店への問題提起でもある。つまり、今日の店にはわざわざ出かけるだけの楽しさがないということだ。ほとんどの店の展開内容が予測のつくもので、であれば用のある時だけ行けばいい。また、予測がつく買い物をするのであればネットでもできる。

こうしてみると、店はどうしたら来てもらえるのか、即ち、店なるものの存在価値が問われる時代になっているのである。そして、その答えのひとつが、何と出会うか予測がつかないという面白さのある市ということになるということだ。現代の小売業がここから学ぶことは大きい。





 

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