ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
10.5.2006
フィッティングルームを試着の場以上の存在にすること

ロサンゼルス地区に展開する「フレッド・シーガル(Fred Segal)」。とびきりの新しさを品揃えの魅力に、紳士・婦人・子供のファッション、バッグ、靴、アクセサリー、化粧品・バス製品、ホームアクセサリーやデスクアクセサリー、ギフト雑貨など、多様なカテゴリーの売場を集積するクロスMD型の店である。各売場を横断する、即ちクロスするMD軸になっているのが「少しトガった、刺激的で、それでいて洗練された美」で、そのニオイが若者から高額所得者、ハリウッドスターまで、実に多様で幅広い顧客を惹きつける。ライフスタイルという言葉は「その人の流儀、生活姿勢、所有物などによって特徴的に表現された、首尾一貫した生き方」を意味するが(ちなみに、この言葉が曖昧なまま使用されているのは問題である)、この店はライフスタイルストアの数少ない優れた事例のひとつである。

店内は各売場がそれぞれ部屋のような形態をとりながら、その一つひとつが出し物の性格を持って構成されている。そのことは、邸宅の中のいろいろな部屋を覗いて回るような楽しさをもたらすと同時に、新しさということで何らかの刺激のある出し物を見て回る興奮を自覚させる。そういったことからすると、この店では売場が『演目』の、店全体はその演目が常に変化する『劇場』の性格を持っている。弊社は1980年代初め、世界で最もエキサイティングな百貨店という評価を得ていたブルーミングデールを取り上げ、それを通して「店舗劇場論」を提唱した。そしてその立場からすると、今、そのことを最も強く感じ取れる事例がこの「フレッド・シーガル」である。

以上のことを念頭に置いて写真をご覧いただきたい。「フレッド・シーガル」を歩いていて、とある婦人ファッション衣料の部屋、即ち売場で目についたものである。すぐにわかるように、これは壁面に設けられたフィッティングルームであり、そのポイントになっているのが目隠しとなるカーテンである。邸宅の中の美的に見ごたえのあるカーテンと受け止めることもできるが、ちょっとした舞台の幕のようにも感じ取れる。この中で新しさの刺激に触発された服を試着し、幕を開けてみたら、役者になったような気分になるかもしれない。そんなぐあいに、顧客をワクワクさせる装置になっているのである。

フィッティングルームを試着の場を超えて、それ以上の存在にすることの効用。「フレッド・シーガル」の例から学ぶのはそのことである。化粧室をパウダールームとしてアップスケールすることにも効用はあるが、フィッティングルームに新たな価値を与えてみることにも購買促進上の効用があるのではないか。そんな問題意識も得ることができる。加えて、『劇場』の性格がこんなところにも表現されている点にも注目したい。つまり、店作りにおいては、その思いやコンセプトを細部にまで徹底して追求することの重要性を改めて認識するのである。





 

株式会社ツタガワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ