ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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7.10.2007
高質なモノを売るには高質な修理修繕サービスの提供を

上質な、時流を超越した「不朽の名作」と言えるモノと長くつき合う。そんな消費姿勢が注目される時代である。昨年11月2日掲載号で取り上げた「英国百年アイテムのクローズアップ」はそのあらわれと見ることができる。この消費姿勢は時代の流行語でとらえればロハス的生活ということになるのだが、結果はそうであっても動機はロハスでは説明できない。「不朽の名作」を選び出す審美眼を持ち、それをこなし、使用することにこそ美学がある。この美学を究めることへの思いこそが重要な動機なっているのである。

「不朽の名作」の価値を持つ代表的商品が高質で高級な靴である。実際、英国製は勿論、イタリア製、フランス製、あるいは日本製でも大塚製靴や三陽山長に代表されるグッドイヤーウェルト製法で作られた高級靴の人気の高さには目をみはるものがある。例えば紳士靴の場合、こうした高級靴の価格は4万円前後から8万円台で、なかでも最高峰とされる「エドワードグリーン」は12万円にもなる。しかし、それは所得のうえでまだ裕福と言えるレベルにはない男たちの価値観をも十分に刺激する。「2万円台の靴を1年で履きつぶすより、12万円の靴を10年、15年と使い続けるほうがいい」という消費観を持つ男たちが明らかに存在し、しかも増えてきているのである。

となれば、そこで必要になるのが、靴の質の高さに見合った質の高い修理である。つまり、間に合わせではなく、よりよくすることをコンセプトにする修理である。それは靴の持つ生命感を高めることであり、その価値観に応えてくれる、繊細な美意識と高度な技術を持ち合わせる職人のいる修理業態が求められているのである。こうしたなかで注目の繁盛店になっているのが、東京・青山に路面展開する「ユニオンワークス」である。ここは、英国製を中心にグッドイヤーウェルト製法やマッケイ製法などで作られた高級靴の修理を得意にしている靴修理専門店である。靴好きにとってカリスマ的な存在である靴職人、中川一康氏が代表を務め、顧客は、彼に任せれば、修理によって生命感を維持強化できると期待しているのである。当然のことながら、料金は修理の質の高さに見合うもので、紳士靴のヒールの交換で4,200円、顧客の平均単価は6,000円から7,000円といったところ。

高島屋新宿店が6階に導入しているミスターミニットの高級版、「シュー&バッグ・リペアサロン・バイ・ミスターミニット」。

高級靴と言えば百貨店に期待する買い物のひとつであるが、この点を自覚してのことであろう、このところ百貨店で靴売場の一画に修理コーナーを目に見えるよう露出して設ける動きが活発になってきている。伊勢丹新宿店1階の婦人靴売場に新設した、白一色の環境デザインが印象的な修理コーナー(バッグをはじめ婦人革製品全般を扱う)、ミスターミニットの高級版を導入している高島屋新宿店はその好例である。こうしてみると、百貨店も修理について、高質で高感度な買い物の提供という業態特性にふさわしい取り組みが必要であり、この点でどれだけ質の高いサービスを提供できるかがその店のグレードを語る新たなポイントになってきていることに気づく。

高質なモノを販売すると同時に高質な修理サービスを売り物とすることの効用はいろいろあるが、そこでモノを買い、修理を依頼することは、長年にわたってつき合ってくれる、忠誠心を持つ継続客を育成することにつながる。モノと長くつき合うという価値観に応えることは、顧客との長いつき合いを創造することでもある。この時代にあって持ち合わせておきたい重要な着眼点である。




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