ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
7.10.2007
マネキンの使い方と高揚感の創出と

最近、アメリカの高級百貨店やファッション専門店で読み取れる新たな傾向が、マネキンを「かたまり」にして見せることである。つまり、一体や二体ではなく、数体をグルーピングして配置する方法である。言うまでもなく、マネキンをかたまりにして見せることの効果は、今、店が顧客に語りかけたいファッションメッセージに気づきを与えることにあるが、それ以外にも意図できる効果があると思われる。つまり、このかたまりを店内の中央に配することで、商品が整然と秩序を持って陳列展開される空間に揺らぎをもたらし、それが店の中の空気を高揚感あるものにしているのである。

百貨店ではこうしたマネキンのかたまりを、エントランスゾーンをはじめ、店内の様々な場所に配する動きが見られる。それらは店が強調したいファッショントレンドを瞬間的に感じさせる効果を持つと同時に、やはり店内を歩くことに高揚感をもたらすことでも効果を感じさせる。また、この種のディスプレイのなかにはアート作品を展示しているような印象を与える高度なレベルのものもあり、店内に美的緊張感を漂わせ、そのことが高揚感へとつながっている。これまではこうした場所では、巨大な生花を飾るといった手法が用いられたものである。ゲストを迎える姿勢の表現として、それも高揚感を生み出す効果を上げてきたことは確かだが、今は商品を着たマネキンのかたまりでそれ以上の高揚感を創造する。これは注目しておきたい環境創造における手法である。

サックス・フィフス・アベニューの若い顧客層を対象にするファッションフロアのエントランスゾーン。鮮烈な赤のマネキンを使用し、ホットなメッセージの強調に効果を上げている。

当然のことだが、マネキンをかたまりで配置するにはかなりのスペースが必要となる。勿論それは本来ならば販売に充てることのできるスペースである。しかし、こうしたスペース効率上の問題を見越したうえで、多数のマネキンによるディスプレイにスペースを割く理由はどこにあるのか。それはオシャレへの本能的な欲求を刺激し、高めることが購買の入り口になる高感度なファッション業態やファッション売場においては、顧客のオシャレへの意欲を高揚させることが大きな鍵になるという認識があるからである。

高揚感を与えることは店内や売場内を商品で埋め尽くしたのでは実現できない。高揚感は今日、これからの店作りにおいて最も大切にしなければならない環境要素なのである。販売に充てるスペースは減るが、それによって結果的には購買率や一人当たりの購買点数が増え、効率のうえでも報われる。これは店作りにおいて持っておきたい新しい尺度である。




 

株式会社ツタガワ・アンド・アソシエーツ

会社プロフィール 業務案内 蔦川敬亮プロフィールプライバシーポリシーお問い合わせ