ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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10.10.2007
喫煙者を「もてなす」姿勢を持つことから

商業施設でも一般の休憩所や飲食店内も完全禁煙にするところが増え、それに対する受け皿として、館内数ヶ所にハコ型の喫煙ルームを設けるなどの例が増えてきている。その多くは化粧室に隣接する奥まった場所で、中央に灰皿を兼ねた吸煙機を配置し、通路に対しては大きなガラス面を採るといった造りによるもので、周囲にケムリもニオイもまったく洩れない、嫌煙家にとっても安心感のあるものである。このような喫煙ルームの設置は公共施設を含めて新たなスタンダードになりつつあり、社会的にも正しいあり方だという空気ができつつある。

しかし商人としては、嫌煙家をもてなすと同時に、喫煙者をもてなす視点も持ちたい。何しろ厚生労働省の調査によれば、20代から50代の男性の喫煙率は50%を超えているのである。商業施設を利用する際、最初に喫煙場所をチェックする男性は多い。その有無、どんなところにあるかは、その商業施設で心地よく過ごせるか否かを判断する価値基準になる。しかも今日、喫煙率の高い30代、40代の男性は買い物の主導権を握るという点でより重視したい存在になっているのである。

喫煙に「もてなし」の視点を持ち込み、喫煙者を歓待するという姿勢もあっていいのではないか。そんな視点を持って観察してみると、商業施設では百貨店・SCを問わず、このところ喫煙ルームのあり方について新たな方向を示す事例が出てきていることに気づく。例えば新丸ビル7階のレストランフロア。ここでは、喫煙ルームとしてフロアの数ヶ所にグリーンを植えた坪庭のようなスペースが設けており、居心地のいい空間になっている。そんななか極致の事例と言えるのが東京ミッドタウンの商業棟ガレリアのものである。

東京ミッドタウンの、気持ちのいいガーデンを見渡せる喫煙ルーム。

この建物は、外苑東通りに面したメインエントランスから奥へ2本の通路がまっすぐに伸びる、奥行きの深い細長い形状をしているのだが、メインエントランスから見て突き当たりにあたる場所からは、巨大な窓越しにガーデンの広がりを望むことができる。そしてこのSCの喫煙ルームは、このガーデンの景色を見渡すことのできる2階休憩所の一画に設けられているのである。三方を全面ガラス張りにし、広々としたガーデンの景色をよく眺めることのできる環境は実に気持ちがよく、壁に描かれたアートやオブジェのような存在感のある照明器具など、室内のインテリアも美的に心地よいものである。また、窓に面した室内奥の一画には腰掛けてゆったりと喫煙できる椅子も配置されている。

肩身の狭い思いをしている喫煙者に、ここではゆったりと快適に過ごしていただきたい。喫煙者を片隅に閉じ込めるのではなく、いい場所で寛いでもらいたい。東京ミッドタウンの事例に感じるのはSC側のそんな姿勢である。喫煙ルームにおける工夫は男性の集客と滞留を促進するうえでの有効な一策になる。そんなことを痛感する。





 

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