ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
1.15.2009
乳幼児連れを「気兼ねなく過ごさせる」こと

最近、郊外立地のSCを歩いてみて気づくのが、「親子カフェ」が新たな構成要素になってきていることである。この業態は、店内をカフェスペースと、専門スタッフが常駐する子供のためのプレイスペースで構成するもので、親は子供がプレイスペースで遊ぶ姿を見ながら、お茶を飲んだり、お母さん仲間とおしゃべりをしたり、用意された雑誌を読んだり、あるいは定期的に開催される手芸などの単発講座に参加したりといった利用ができる。ただしこの業態が持つ最大の価値は、「乳幼児連れ限定」、即ち「お互い乳幼児連れだから」というところでの気兼ねのなさにある。

乳幼児連れでもどこへでも出かけたいし、出かけた先の商業施設では乳幼児連れということでの気兼ねを感じることなく過ごしたい。「親子カフェ」はこの気持ちに応えるものであるが、同様にもうひとつ注目したいのが個室の利用である。飲食店がその代表であり、乳幼児連れの視点に立ってみると、個室は他の客に対して気兼ねなく過ごせるところとして、日常的なシーンにおいても便利に活用したい価値を持っていることに気づく。そういったなかで、乳幼児連れのお母さんたちの間で、カラオケルームの「気軽な個室の飲食店」としての利用の広がりが見られるというのも納得できる話である。

「親子カフェ」のひとつ、流山おおたかの森SCに店舗展開する「キッチンキッズダム」。ここは6歳以下の子供連れであることを利用の条件に、子供のためのプレイスペースに保育士の資格を持つスタッフが常駐している。

同様のことは飲食店に限らず、例えばネイルサロンやマッサージサロンなどのサービス系業態についても言える。このところ、この種のサービス系業態においては個室を設けることが注目すべき方向になっているのだが、その主な目的は、利用客に、他の客の存在を気にすることなく、よりくつろいだ、贅沢な時間を過ごしてもらうというところにある。しかしこれもまた乳幼児連れの視点に立ってみると、他の客に対して気兼ねなく、ゆったりとネイルやマッサージのサービスを受けられるところとして、本来の個室の狙いとは別の意味と価値を持つものになる。実際に南青山にあるネイルサロン「ダッシングディバ」にはパーティールームと呼ぶ個室があり、ここでは乳幼児連れのお母さんたちが集まって、まるでカフェでおしゃべりを楽しむように気軽に『ネイルパーティー』を楽しむといった例も少なくないのである。

ベビーカーを押すことも含めて乳幼児連れでどこへでも行くという動きの広がりは、それが店側にとって歓迎したいことかどうかは別にして、乳幼児連れが顧客として見過ごせない存在になってきているということでもある。そこで、彼らをもてなす姿勢で様々な施策を講じることが成長につながるという考え方が業種・業態を超えて出てきておかしくない。勿論、店や施設によってそれぞれの考え方や見解があって当然だが、乳幼児連れへのもてなしを掘り下げることは、一方では、乳幼児連れではない他の顧客へのもてなしにもつながる策になる。つまり、本人たちにはそうとは気づかせない形で、乳幼児連れと、そうではない顧客を物理的に分離させ、それぞれが互いに気兼ねなく訪れ、過ごせるように配慮することでの快適さを求めるということである。これはこれからの店作り、商業施設開発に求められる重要な視点である。





 

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