ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
5.11.2009
ていねいな接客と心地よく過ごせる環境の提供〜婦人靴売場開発のトレンド

アクセサリー、バッグ、靴、小物をはじめとする婦人服飾雑貨は、その時々のファッションの旬の新しさを楽しめるところに魅力があり、ファッション衣料以上にファッション価値は高い。また、服飾雑貨には新しい発見と出会いがしばしば衝動買いという形をとりながら購買に発展するという特質がある。それは売る側にとっては、服飾雑貨の展開には新しい発見について高い集積の実現が必要ということである。それによって顧客の来店頻度を上げ、購買頻度を上げることができる。

百貨店にとって服飾雑貨は、業態として絶対の強みにしたい、戦略的意義を持つカテゴリーなのだが、その拡充は簡単なことではない。新しいモノとの出会いを楽しむということからすれば、百貨店の場合、服飾雑貨は気軽に立ち寄り型の買い物のできる、街の通りからすんなりとアクセスできる1階に展開したい。しかしここで展開したいものに化粧品があり、服飾雑貨を1階で徹底拡充を図るには限界がある。そこで、ニューヨークの百貨店のリニューアルで出てきているのが、服飾雑貨を形成する各カテゴリーやアイテムの買い物上の性格を再度吟味しながら、展開フロアを1階以外へと広げていく動きである。

その点での興味深い事例がニューヨークのサックス・フィフス・アベニューの婦人靴売場の8階への移設拡大リニューアルである。一対一の質の高い接客の重要性、スペース効率といった視点から、アメリカの百貨店では婦人靴を婦人服のフロアで展開する例が多く見られるが、それにしても8階に婦人靴というのは常識をはるかに超える挑戦的な試みである。しかも、ここに到る途中の6・7階の2フロアがまるまる紳士服であるとなるとなおさらである。下層階からの回遊を考えると、「はるか彼方の靴売場」という印象を拭い去ることはできない。ただし、スペースは贅沢に使われており、実際、膨大な数のフィッティングのためのソファが配置されている。

購買のプロセスに時間をかけるにふさわしい、ゆったりとした環境を提供。

靴を買うプロセスのなかにはフィッティングと同時に、自分のサイズの靴をバックヤードから持参してもらうことにまつわる「待つ」という行為と時間が含まれる。ゆったりとしたソファはそのためのアメニティとしても重要な意味を持つのであり、日本の百貨店のリニューアルされた婦人靴売場ではこの視点からの取り組みが欠落しているように見えるのである。実際、サックスの場合、商品陳列に割いているスペースよりも、ソファを配したフィッティング&ウェイティングのスペースの方が広いという印象で、また、スペイシャスであるがゆえに随所に設けられた巨大な鏡が生き、大きな邸宅の中に身を置いているような心地よさを感じさせる。

8階に広がる新しい婦人靴売場を見ていると、何よりも時間をかけての接客に呼応するサロン風の環境の具現化が意図されていることを読み取れる。婦人靴の場合、ていねいな接客と心地よく過ごせると意識できる環境が継続客を掘り起こす力になり、購買を確率高くものにしていく鍵になる。この考え方はこのところ見られるアメリカの百貨店の婦人靴売場のリニューアルに共通するトレンドになっているように思われるが、サックスのそれは他店の事例を圧倒する、今後の婦人靴売場の姿を究めるものと言えるだろう。





 

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