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2013年12月12日開催 |
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1.注目事象から (1)アーバントラック/スポーツはファッションのインスピレーション源 ◆2020年オリンピック/パラリンピックの開催地が東京に決定。これからのトレンドを読むうえでの重要なニュース。時代の気分が快活でエネルギッシュなものへと入れ替わってきているなかで、この動きがさらに促進されていく。その気分は着こなしによって表現され、新しいファッションアイテムはスポーツアイテムのなかから生まれる。 ◆ニューバランス、ナイキ、コンバースのスニーカー。これを正反対の持ち味のスウィートでエレガントなアイテムと組み合わせる。アスレティックウエア用のメッシュ素材を活用する。脇にラインの入ったトラックスーツ(ウォームアップのためのスウェッツ)を一捻りする。アスレティックソックスとサンダルを組み合わせる。メッシュのトップとシルバーのランニングショーツを組み合わせる・・・・等々。 ◆新しいファッション性はスポーツにあり。このことはプレッピー・スタイルへの関心の高まりとも関連。このプレッピー・スタイルを特色付けているアイテムに、アイビーリーグの学生スポーツに根ざしたものが多いから・・・・ポロ、ゴルフ、テニス、スカッシュ、セーリング、スキー、ラグビー、ラクロス、ボート(レガッタ)など。 (2)味覚探検と大ヒット商品/ニューヨークと東京から ◆「ドミニク・アンセル・ベーカリー(Dominique Ansel Bakery)」がニューヨークで社会現象になるほどの賑わい。お目当てはここが売り出した「クロナッツ(Cronuts)」なるスウィーツ・・・・半分クロワッサン、半分ドーナツというハイブリッドのペーストリー。見た目はドーナツだが、中はクロワッサンのようにバター風味の多重の薄い層になっている。切る場合は、層をつぶさないように、鋸歯状のナイフを使う必要がある。1個5ドル。 ◆クロワッサンとドーナツという馴染み深い平凡な食べ物を一体化させながら、これまで経験したことのない新しい味覚と食感を創造。月毎にひとつのフレーバーを設定し作られ、この変化する企画がリピーターを生み出し、常時行列のできる状況を作り出す。 ◆東京では、世代を超えて懐かしさを共有する食べ物であるコッペパンの専門店が登場、行列のできる人気店になっている。「吉田パン」(東京・亀有)。切り込みを入れた大きなコッペパンにその場で具材を挟んでもらえる。ルーツは岩手県盛岡市。 ◆食消費を促進する背後要因のひとつである味覚探検には2つの面がある・・・・未体験の味覚探検と、体験済みだが懐かしい領域にある味覚探検。 (3)本とケミストリー効果と ◆マーク・ジェイコブスがマンハッタンに展開する、遊び心を軸に、本とこまごまとした多様な雑貨で構成する「ブックマーク(Bookmarc)」。新ザッカ業態の先駆者となったこの店が東京・原宿に開店。小さな店の中には本と雑貨がぎっしりと詰まっている。 ◆本が書店以外の小売店にとっての戦略的商材になりつつあることに注目。アメリカでは本を商品構成に取り入れることが、特にファッション専門店の新たな魅力になっている。本にはどこか精神を高揚させる力があり、それは本が構成要素になかった時には感じ得なかったもの・・・・本が異分野のモノと反応するケミストリー効果。 ◆東京でも本と雑貨が反応する新ザッカ業態が面白い・・・・マンガ・アニメ文化をテーマにした「トーキョーズ・トーキョー」(東急プラザ表参道原宿)など。 ◆一方、書店が雑貨展開と取り組み、新ザッカ業態になりつつある事例も・・・・代官山Tサイトの蔦屋書店。本だけの時にはないトキメキが感じられる。 (4)足首で遊ぶ、ソックスで遊ぶ ◆クールビズでも定着してきた「つんつるてん」スタイル。足首が新しいオシャレのしどころとして意識される。パンツの裾をロールアップし、足首を出す着こなし。パンツは細身で裾が狭まったテイパードなシルエット。靴は重量やボリュームを感じさせるものではなく、ローファーやオペラシューズなど軽さを感じさせるもの。バランスの美への繊細な感性がある。 ◆アメリカ、シリコンバレー(IT産業の中心地)で派手な色柄のソックスがオシャレアイテムに。ソックスはクールな先駆者を表現するアイテム。テッキー(IT技術者)には男性が圧倒的に多いこともあり、彼らの服装は「男性支配のドレスダウン文化」と呼ばれる。 ◆『粋な足首』がメンズファッションの新しいテーマに。そこでクローズアップされる「面白く、楽しい、遊び心のあるソックス」・・・・人気を集めるストックホルム発のソックス専門店「ハッピーソックス(Happy Socks)」(2008年創業)。 ◆既成の価値観に沿った「ジェントルメンのソックス」ではなく、「面白く、楽しい、遊び心のあるソックス」に商機がある。 (5)ホームがファッションになる ◆「タイガー」や「アソコ」といった家庭雑貨を商品構成の柱にする店が入店待ちの列ができる賑わいを見せており、ホームがファッションカテゴリー以上に興味ある分野に。 ◆ホームの分野を熱くする要因で見逃せないのが、自分のセンスに自信を持ち、そのセンスの表現の場を家庭に求める動き。これに関して特に表現メディアとしてのブログの果たす役割は大きく、家庭に関連する自分のセンスを披露する場になっている。 ◆家庭生活にファッション性を意識する情況が広がり、そこでとりわけ関心を集めることになるのが、美的価値を感じさせるファブリックによるソフトファーニシング。 ◆ホームへの興味を牽引する新しい事例として注目されるのが「ザラ・ホーム」(世界35ヶ国、357店を展開)。ソフトファーニシングに力点を置いているところに専門店としての特色と魅力があり、本格的なホームファッション業態と言える。価格は百貨店レベルで、衣料のザラのようにこなれてはいないが、衣料のザラのファンならずとも惹かれる店。 ◆ファッションとは衣服にとどまるものではなく、生活のあらゆる場面を束ねる生活思想そのもの・・・・そのことに目覚めつつある時代。 (6)季節にとらわれない/季節の美に敏感 ◆実際の生活の中で夏が長くなっていることとも関係があろう、夏物を通年で着ることが特にロストジェネレーションの間では少数派ではなくなってきている。男性が夏のスーツにコートを着る、女性は既成の季節感からすれば夏のアイテムを冬も着こなしに取り入れる。背後には重ねるコーディネイトの発達とそれを促進するアイテムの浸透、着回せるということでの多用途性を重視する価値観があるが、季節とそれにふさわしい衣服という既成の尺度が崩壊し始めている・・・・重大な変化。 ◆季節で生活を律していく。この既成概念の崩壊は衣服ばかりでなく飲食から家庭用品やインテリアにまで及び、生活全体に夏を軸にした組み立てになっていく。 ◆季節にとらわれなくなった生活とは対照的に、一方で季節の美には敏感に反応する。和食が無形文化遺産になった背後には「自然の美や季節の移ろいの表現」という日本ならではの精神があるが、まさに俳句の心で季節の美を楽しむ姿勢が強くなってきている。この傾向はさらに続き、歳時記を暮らしの喜びにする「フェスティバル消費」への反応はますます強くなっていく。 2.トキメキは日本の美、そして地場にあり 《「日本人の精神の体現」としての和食が世界無形文化遺産に》 ◆2013年夏、富士山の世界文化遺産登録が決定し、富士山が社会現象になり、その勢いは2014年へと続いていく。富士山は信仰の対象、芸術の源泉として日本の精神を語るものとして世界遺産になったが、これに加えてもうひとつ、日本の精神を語るものが同じユネスコの世界遺産のひとつ、世界無形文化遺産に登録される。和食である。 ◆この場合、和食と言っても特定の料理を意味しているのではない。対象となるのは、「自然の尊重という日本人の精神を体現した食に関する社会的慣習」。つまり、「日本人の精神の体現」。これを踏まえると、和食の特徴は次のように整理される。 ◆日本の風土や精神に根ざした文化や生活美を尊重する動きが広がってきているが、和食の世界無形文化遺産登録はそのことをいっそう促進し、「日本人の精神の体現」はこれからの大きなテーマになり、生活観に大きな影響を与える。 《美的感動を地場産品に発見する》 ◆アッシュ・ペー・フランスが、日本各地の地場産品に目を向け、「地場産」と名付けた新たな取り組みを始めている。「日本各地の風土が生み出した『美的物産品』」を切り口にするもので、セレクトされているモノに美的価値という共通因子がある・・・・地場の職人と独創性のあるクリエイターを同列に見ていく同社ならではの姿勢が感じられる。 ◆民藝品に代表される、その土地の職人がその土地で得られる材料を使って作る地域産品に得難いクラフトワークとしての価値を見出すこれまでの動きが、美的感動を見出すという方向でもう一歩進み、地場や地域というテーマに新しい情況をもたらしつつある。 ・「大日本市」の活動・・・・地場の工芸品メーカーを集めた市。民藝運動の精神を受け継ぐ活動。直営店も出店。 《日本人のアイデンティティを探求する》 ◆風土に密着した地場の食、『地縁食品』が食探求のテーマになっている。地場、風土、地域、地方・・・・そういった言葉で表現されるモノ、コトについての新しい動きの背後には、日本の生活美を見直し、大切にするという、2000年代半ば頃から永続している潮流がある。 ◆日本の生活美の背後にあるのは日本の風土であり、日本人の精神であり、一連の動きには、そこに日本人としてのアイデンティティを見出そうとする気持ちが作用している。グローバルな立ち位置で日本を見ることが好むと好まざるとに関わらず求められている時代の情況が、その気持ちをさらに高めていく。また、日本の美に素養を持つことが高等な人物の条件として意識される時代であることも見逃せない。 3.時間・体力を節約したい 《ダイバーシティーと高齢化が進む中で》 ◆誰もが働き、忙しい。「ダイバーシティー」が社会のテーマになり、女性の活躍を成長戦略に据える安倍政権のもとでこの情況はさらに進む。ここから出てくるのが、日常の家事労働をできるだけ効率よく片づけること・・・・短時間・省体力が生活のうえで追求したいテーマになる。そのテーマは体力が衰える高齢者にもあてはまる。 《短時間・省体力クッキング》 ◆短時間・省体力クッキング・・・・一方で料理作りが趣味の一面を持っている時代でもあるが、これからの食とそれに関連する分野を考える重要なポイント。実に多様な背後要因がある・・・・誰もが働き、忙しい。高齢化の進行。 ◆この点に着目したソリューションの提供に商機がある。電子レンジを活用したマイクロウェーブクッキングの広がりもそのひとつだが・・・・下ごしらえしたものを売る(熱する、炒めるといった最終的な手を加えるだけ)、タレ・ソース・出汁の活用(簡単で美味しいものを作る調理術として)も。簡単調理をリードする料理家の存在も。 ◆短時間・省体力クッキングは表向きの理由で、若い世代については料理作りの能力が退化していることを見逃せない・・・・家庭での食事の献立を考え、作るという、かつての概念からすれば「ふつう」の日常行為が、特別な知識や技術を要するものになってきている時代。素人の日常的食事のレシピで構成するクックパッドが『生活必需品』になる。 ◆短時間クッキング、料理作り能力の退化が調理器具にも新しい動きをもたらす。 《家事の外注、そして御用聞き》 ◆短時間・省体力のテーマは家事労働の外注へと発展し、生活習慣となって浸透していく。ハウスクリーニングサービス、日常の洗濯物の代行サービス、宅配サービス、さらには買い物代行サービスも。また、昔ながらの「御用聞き」も価値を持つようになり、特に高齢者を意識した場合には、店に来てもらうのではなく、店から顧客のもとに出向くことが重要な取り組み視点として浮上してくる。 ◆ホンネのところで、「生活の質を落とさない手抜き」が求められる時代。その点をくみ取ったソリューション提案が商機を創造。 4.清雅の時代 《キャサリン妃に触発されて》 ◆ロイヤルベビー誕生をきっかけに改めて英国のウィリアム王子夫妻がクローズアップされてきた。その中でとりわけ関心を集めたのがキャサリン妃のセンス。ロイヤルベビー誕生に関わるだけでも様々なモノが興味を惹き、一般生活者の購買を刺激。 ◆キャサリン妃は一般家庭出身で、企業でキャリアウーマンとして働いてきた経験を持つこともあって、そのファッションセンスは身近な模範になっている。 ◆キャサリン妃の姿には、 ほどよい保守性、品性の輝き、きりりとした、凛とした美があり、それらの要素がひとつになることで生まれるセンスのよさがある。全体に漂うのは、端正な美しさ・・・・まさに今の時代に吹き始めた美意識の風。志向する美意識との一致があればこそ、キャサリン妃のセンスが人々の模範になる。 《端正、清潔、行儀のよさ》 ◆端正な美しさを意識する兆しは街頭の着こなしにも読み取れる・・・・タイトスカートを穿きこなした姿。夏に現れた清楚なポロシャツ姿。秋口になって若い男女の間で見られるようになった『プロデューサー巻き』。 ◆先端を行くファッショニスタの間で、端正で、行儀のよさを意識する着こなしが出てきており、2014年にはそれが生活者を感化するものへと広がっていくものと考えられる。 《プレッピー・スタイルに共感する美》 ◆端正、清潔、行儀のよさ・・・・こうした言葉を得てイメージするのがプレッピー・スタイル。プレッピーが意味しているのはアメリカの裕福な良家のアティテュード(生活姿勢)であり、それは「ピューリタンの道徳観と貴族社会の責任感が融合」してできたもの。そのアティテュードの服装面での表現がプレッピー・スタイルで、このスタイルの重要な要素のひとつが「ニートネス」・・・・「きちんとして、上品であること」。 ◆正統的育ちの良さの標準であるプレッピー・スタイルが、ストリートファッションを世代ファッションとして愛好してきたロストジェネレーションの若者にも浸透し始めているのは注目に値する・・・・世代にひとつの転換点が訪れつつある兆しとも読める。 ◆頭をもたげてきている新しい美意識は、キーワードで表現するなら、「清雅」と呼ぶのがふさわしい。主流が「清雅」へと入れ替わることを予感。 5.『アーバンマザー』/注目の新しい生活者像 《母であり、センスのいい女性であり》 ◆今一番輝いている毎日を送っているのが子育てとセンスのいい暮らしを両立できている女性。その模範となっているのが子供を持つタレントたち。ブログなどを通してその生活ぶりを発信、子供をもうけて引退ではない生き方も共感を集めている。 ◆子供と一緒の生活をセンスよく楽しむ、その一方で仕事でも第一線に立っている。これが都市の先端を行く生き方として受け止められており、こうした女性が格好いいと考えられ、目指すべき模範になっている。名付けて「アーバンマザー」。 ◆20代半ばから30代半ばの未婚女性のなかに、恋愛や結婚を飛び越えて、子供が欲しいという気持ちを持つ者が多く見られるようになっている。 《街がステージ/ショウオフする場として》 ◆街は親子にとってのステージ。そんな感覚での外出が「アーバンマザー」の特性。つまり、親子を単位にしてセンスのよさを表現。「見て、見られて」を意識できる、感度の高い人たちが集まる街やオシャレな街がいい。 ◆「デイリー・シック」がアーバンマザーを刺激するファッションのテイスト・・・・自分自身の着るもの、さらには子供に着せるものについても。また、センスのよさの表現ではベビー用品や育児用品も重要・・・・高性能のベビーカー、抱っこ紐ではアメリカのエルゴベビー、ベビー用食器ではスウェーデンのベビービヨルン。デザイン性が高く、使いやすい。 《クオリティ・キッズライフ/消費の重要なテーマ》 ◆アーバンマザーの特徴のひとつが、子供を健やかに育てることにお金を惜しまないこと。もうける子供の数が多くても2人ということもあって、1人の子供にかけるお金は格段に上昇している。子供の健康と生活にとって正しいモノ、美的価値の高いモノへの購買意欲はきわめて旺盛・・・・ベビーファニチャーやキッズファニチャーにも及び、特に注目されるのが、使いよさとデザインが高度に調和する名作が多いスカンジナビア発のモノ。 ◆一方、「学ばせる」ことが親のすべき躾として意識され、出費を惜しまない。この姿勢を刺激するように、子供向け教室のなかには2歳児クラスは勿論、1歳児クラスを開設する動きも。また、体験の機会を与えるワークショップも含めて、子供に関するモノ、コトについて啓発的な提案をすることが親を敏感に反応させ、集客のポイントになる。 |
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以上 |