with interest in people |
2012年6月12日開催 |
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1.ニューノーマル(新しい規準)を求めて 《新しい理念の必要性を議論するなかで》 ◆緊縮一辺倒に反旗を翻して政権を勝ち取ったフランスの新大統領、フランソワ・オランド氏。市場型の改革を志向したサルコジ前大統領の路線からの揺り戻し。欧州危機に揺れる中、その理念が興味深い。 ◆3.11後に頭をもたげてきた「コスト一辺倒の文明社会の規準」を見直す動き。経済的観点の前に問わねばならないことがある。 ◆国際社会全体に、1980年代以降の行き過ぎた市場原理主義への疑問の声が高まってきている・・・・市場が正義や共通善(社会にとって善いこと:コモン・グッド)まで定義できるかのような考え方がまかり通っていることは間違いではないか。 《共通善を規準に》 ◆「共通善に資する」ことを意識する生活姿勢、消費姿勢。自制(リストレイント:restraint)する、ソーシャリー・コレクトを尺度にする、利他への目覚め。 ・「タニタ食堂」の人気に読み取ること・・・・栄養管理士がトレンドセッター。 ◆共通善に資する姿勢を生活や消費の面で表現することは先端をいくものとなる。また、それはステイタスを語ることにもなる。 《風土と文化の尊重》 ◆グローバリズムに対して地域や国家の独自性や価値観を尊重する動きが広がる・・・・文明的アプローチによるグローバリズムを風土密着の文化的アプローチで補正していく。風土とは文化の形成に影響を及ぼす地理的、精神的環境。生活する足元の風土と仲良くすることが文化的生活として意識される。 ◆興味深い注目事例。「文明と距離を置く姿勢」「地場への敬意」が共通。 ・CETへの注目、関心の高まり。 ・「ものづくり」をテーマにする施設、「2k540 AKI-OKA ARTISAN」。 ◆文明的であることとの対比のなかで、文化的であることが幸せの規準になる。 2.実直さに惹かれる 《ピューリタンの美と生活精神》 ◆ファッションの先端を行くニューヨーカーの間で見られる「きちんと、楚々とした襟元」の着こなしに感じること・・・・行儀のよい「レディーライク」の美を志向する兆し的動き。 ◆プレッピー・スタイルとの共通性。プレッピーが意味しているのはアメリカの裕福な良家のアティテュード。「ピューリタンの道徳観と貴族社会の責任感の融合」が特徴。 《アノニマスデザイン(anonymous design)》 ◆このところ生活者の関心を惹いているのがアノニマスデザイン、即ち、無名性のプロダクトデザインによるモノ。 ◆昨秋オープンした無印良品による「ファウンドムジ青山」に注目。世界各地からその土地に密着した日用品、日常生活用品を収集し、展示するだけの非売品も含めて展開。無印良品の1号店を転換したもので、無印良品の精神である「実質的」であることの情報発信拠点として、初心に返る姿勢も感じられる。 《ノンフリル商品》 ◆LCC(格安航空)がもたらす影響。「ノンフリル」という価値に注目・・・・そのモノやサービスの最重要要素以外を徹底して引き算した商品。 ・最低限必要な機能だけに絞った低価格の耐久消費財の登場も考えられる。 ◆この価値は、これまでの消費観のもとで「すっかり贅肉のついてしまった生活」を削ぎ落とそうとする進歩的な生活美学とも結びつき、新たな広がりを見せる可能性も。 ◆日々の生活体験は学習となって次へと進展する。そこで出てきている質への目覚め。 ◆学習による質への目覚めは、使ってみて、人を裏切ることのない「実直なモノ」を志向する動きになって浸透していく。「ピューリタン」、「アノニマスデザイン」、「ノンフリル」に共通しているのは実直さ。実直さは長いつき合いをするうえでの基本・・・・モノやサービスに求めたい重要な価値。 3.進行するジェンダーレス化と男の消費観 《感性のジェンダーレス化》 ◆男女の感性のジェンダーレス化。21世紀に入って台頭してきた「ニュー・センシティブ・ガイズ」(アメリカではメトロセクシャルと呼ぶ)の流れとも関連。内在する女性的側面に忠実な美意識が背後要因。 ◆「男性はこう、女性はこう」とする既成の感性に基づく商品やMDに疑問を投げかけていく。男物、女物の境は実に曖昧になってきており、ジェンダーレスという立ち位置をものにできるかどうかがモノ作りや店作りの新しい鍵になってくる。 ◆感性のジェンダーレス化が既成のジェントルマンを主語にする枠を崩壊させつつある。 ◆クロスセックス型ファッション店での購買が常識に。婦人と紳士が同じ美の遺伝子を持っていることが鍵に。今日の繁盛ファッション店にはクロスセックス型が多く、これを複数導入している商業施設が賑わう。 《父親の視点から子供に着せたい服》 ◆男性の育児への参加、いわゆるイクメンが急速に常識化してきている時代。家庭内のこともそうだが、育児に関する消費についても男性の視点が入ってきており、女性視点で企画されてきたものの見直しが求められる。 ◆男性の視点は子供服にも及びつつある。「父親が着せたい服」という視点からのMDが期待される時代。これまでの女性視点に加えて男性視点でのMD構築も必要になる。ポイントは2つ。1に、父親は自分のファッション体験を子供服に重ね合わせ、自分の好みのテイスト、性格の服を求める。2に、機能や能書きを重視する。 ・ベビー肌着では男性を刺激する能書きのあるものも登場・・・・ワコールの「ベビー研究所」。あかちゃんにとっての心地よさ、親にとっての着せやすさ・脱がせやすさを追究。機能が父親に訴求力を持つ。 ◆ファミリーを単位にするファッション店が父親も引き寄せる。 ◆ファッション、ビューティー、インテリア、家庭雑貨、スウィーツを含む食料品・・・・感性の高さや新しさが鍵となるあらゆる分野の消費において、男性が大きな存在になっていく。留意点はデザイン性の高さと能書き(機能や教育的価値も)。それによってしばしば高級化が起きる。これまで中心顧客を女性に置いてきた店は業種によっては再考が必要に。 4.過ごすついでに買い物する 《心地よく過ごせる代官山Tサイト》 ◆蔦屋書店を核に構成する商業施設、「代官山Tサイト」。成熟生活者を惹きつける秀逸な事例。商業施設というよりも地域に溶け込んだ商業界隈と呼べる造りが特徴で、ぶらりと出かけてみたい気持ちになる。 ◆オープンな環境が散策を誘うが、蔦屋書店にも「過ごせる要素」がちりばめられており、長時間、散策を楽しめる。代官山Tサイトは全体として「散策を楽しみたくなる界隈」であり、「時間消費」がこの商業界隈が提供する魅力になっている。 ◆豊富な消費体験や生活体験とライフステージを積み重ねてきた「成熟」生活者は、店や売場の集積体だけの商業施設ではなく、進んで時間消費したくなる、過ごす楽しみのある商業施設を求めている。 《屋上》 ◆ポケットパーク(都市の中の小さな公園空間)を取り込んだ商業施設や商業界隈が都市生活者を惹きつける。深呼吸できる都会のオアシスで時間を過ごしたい。 ◆注目の新事例に東急プラザ表参道原宿の「おもはらの森」。6階の屋上に設けられたこの広場には四季を表現する樹木や野草が植えられており、63脚もの椅子が配置されている。同フロアにはスタバがあり、買い求めたドリンクを片手に過ごすことができる。 ◆「過ごせる」ことを価値として意識した場合、百貨店や商業施設にとって屋上は可能性を持つ「フロア」になる。「屋上」を「過ごすために行きたくなるスポット」にする発想が新たな価値を生み出す。 《環境が提供すべき価値になる》 ◆「過ごしたい」という気持ちにさせることが来店頻度向上の鍵になる時代。過ごすことにつながる要素はいろいろあるが、見逃せないのは環境面で過ごす価値を創出すること。 ◆過ごすことを目的に出かけてもらい、出かけたついでに買い物してもらう。この視点を持つことと、そのために環境面で新たな施策を講じること・・・・これからの店作りにおける課題。 5.パッサーバイを「いい買い物客」、そして「顧客」にしよう 《通過チャネルが注目される》 ◆高速道路のSA、PAが高速道路の利用に必要な付属的施設から、買い物意欲を刺激する商業施設へと進化し、小売店にとって新たな可能性を持つ出店先として認知されつつある。同様の出店先には空港も。 ◆消費の場として空港に着目したニューヨークの先駆事例から。 ◆いずれも買い物客は旅途中で「通過する人々」(パッサーバイ:passer-by)。 ◆商圏を描くことが難しい立地もまた商売になる。限られた時間滞留し、通過していく人たちを相手にするのであって、商圏という観点を持ちにくい。 《旅行中の高揚した気持ちをとらえる》 ◆人は誰しも旅行中には気持ちがハイになる。高揚した気持ちは消費の原動力。「旅行中にあるといい」を大義名分に何か買いたくなり、ちょっと羽織って便利なアイテム、アウトドアウエアや用品、ちょっとした服飾小物、アクセサリー・・・・などを買ってしまう。 ◆高揚した気持ちをとらえることで想像を超えるモノが売れ、購買を掘り起こせる。 ◆特にSA、PAでは、旅行者がクルマを移動手段にしていることから、重さや嵩を気にすることなく存分に買い物する。小売店としては実に魅力的な出店先。 《旅行者という一見客を顧客にする》 ◆旅行者はその店にとって一見客でしかないが、その一見客に目を向けよう。絶えることがない一見客は繁盛店を創る。立地によってその可能性は十分にある。 ◆高感度なファッション商品も『東京ミヤゲ』・・・・視点を変えてみると商機あり。 ◆顧客と言えば自社カード所有者ばかりに目が向いているが。旅途中の「買い物客」を「顧客」にする視点も持ちたい。滞在中にする買い物のより多くを囲い込むこと。 6.注目したい動き (1)細胞分裂による事業資源の開発 ◆店を持つ小売企業のマーケティング戦略としてSCに注目。SC出店を意図した新たな業態開発、SCのタイプを踏まえた新型店の開発が活発に。特に高効率を期待できる駅立地SCや都心立地のSCへの出店を意図した小型店の開発が大型店企業の次なる成長戦略に。 ◆立地特性を細分化し、それを踏まえた出店フォーマットの開発。 ◆アメリカの注目事例:ヘンリ・ベンデル。婦人服飾雑貨と化粧品の大型専門店(本店)から商品構成の間口を絞った小型店を開発、一気にSCでの多店舗展開を図っている。 ◆百貨店企業に見る新しい取り組み。SCへの出店を意図した小型店の開発・・・・小型専門店事業に成長ビジョンを求めた1980年代末のメーシーを思い出す。 ・東急フードショー(二子玉川ライズ)・・・・百貨店発・大型グルメ食品専門店。 ◆最新の事例:「イセタンミラー メイク&コスメティクス」(ルミネ新宿2)。百貨店ならではのラグジュアリーコスメのセレクトショップ。国内外約20の高級グローバルブランド化粧品、化粧品関連雑貨・小物を集積。自由に比較購買できるショップ環境で展開。 ◆事業資源育成を視野に入れて百貨店が孵化させる専門業態は増え続けていくだろう。 (2)タレ&ソースで『料理する』 ◆料理作りに必要な基本的な調味料や、卓上で補助的に使用する調味料としての存在を超えた、それ自体に料理としての創造性を感じさせる調味料が食生活に浸透。「食べるラー油」(2010年ヒット商品番付登場)あたりから加速してきた動き。 ・ジュレ状にするなど食感に新しさや変化を求めるものなども。 ◆タレやソースといった調味料重視の食志向をもたらしたもの。 ・客が『自分オリジナル』のタレを作ることを提案する鍋料理の店も。 ◆想像的な味覚を魅力にするタレやソースにMD開発、さらには業態開発の可能性がある。その注目事例、「セルフィユ」・・・・「旨タレ」「旨ドレ」と名付けて70種類のタレやソースを展開。現代生活者の食志向を刺激するMD視点。 ◆タレやソースを手作りする調理器具のクローズアップ。特に小型ミキサー。料理本の分野ではタレ&ソースのレシピ本が出版ブームになっていることとも関連。 ◆背後にある簡単調理を志向する動き。電子レンジの活用という視点もそうだが、タレやソースの活用も、短時間で美味しいものを食卓に出すことに貢献。 (3)書籍がザッカになる ◆ファッション店が書籍の有力販売チャネルに・・・・アメリカで見られる注目すべき動き。例えばキットソンでは2010年に10万部を販売(前年の2倍)、書籍が売上げの柱のひとつになっている。 ◆ライフスタイルストアの「アンスロポロジー」ではMDテーマと連動して書籍を打ち出し、扱うタイトル数は年々増え続け、今では125を数える。 ・アウトドアウエア&用品店では、アウトドア関係の書籍の品揃えを強化。 ・ホールセールクラブでは児童書と料理本を強化。 ・ディスカウンターのターゲットも女性と子供向けの書籍を増やそうとしている。 ◆NYで注目の人気店、マーク・ジェイコブスによる書店「ブックマーク(BOOKMARC)」。写真集や画集、ファッション、モダンアート、デザイン、ミュージックに関わる書籍は勿論、エロチックなものを含む詩集、なかにはレア本、絶版本なども・・・・マーク・ジェイコブスの世界に足を踏み入れているようで、大いに感性を刺激される。 ・遊び心が雑多なモノを貫く店作りの軸。 ◆書籍を品揃えに取り入れた雑貨店として「アダムエロペ・ル・マガザン」が面白い。 ・ブックディレクターの幅允孝のセレクトした本を構成要素に。 ◆買い物価値の刺激につながる「ザッカ、ZAKKA」的視点。 ・生活者が感じている雑貨の定義・・・・雑貨とは『遊び心を誘うモノ』 |
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以上 |