ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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4.10.2007
快適さと美を究めた自転車が新しいライフスタイルを語る

「東京国際自転車展2006」で発表された一台の自転車が今、話題を集めている。英国の気鋭のプロダクトデザイナー、マイケル・ヤング(Michael Young)がデザインを手がけた自転車「シティストーム(City Storm)」である。世界最大の自転車メーカーである台湾のジャイアントの依頼を受けたもので、クラシックなスタイルに現代の美の粋と技術を吹き込んだところに魅力がある。実際、チェーンカバーや泥よけが付き、それでいて高速8段ギアを搭載し、ヘッドライトをフレームに内蔵する、時計をヘッドチューブに埋め込む、バックシートに乗馬のサドルバッグのようなケースを取り付けるといった、ヤングならではの芸も見られる。ちなみに価格は147,000円である。

シティストーム。

「シティストーム」を見ていると、「贅沢なスローライフ」を志向することが、都市遊びにふさわしい、機能と美を究めた自転車への欲求に発展していると考えられるのだが、この点について気づきを与えてくれる興味深い店がある。自転車部品で世界的に知られるシマノが、昨年、南青山に開設した「OVE(オーブ)」という店である。一種のカルチャースペース的性格を感じさせるこの店でモノ訴求の主役になっているのが自転車、それもここでしか手に入らないセミオーダーメイド自転車、「スムーバー(SMOVER)」である。具体的には、ドイツのリーズ&ミューラー社とカナダのルイガノ社のフレームに、シマノ製オートマチック変速機とサスペンションを搭載したもので、快適な乗り心地を究めたところに特色がある。価格は168,000円から50万円と高額であるが、高質な作り、極められた快適さ、鑑賞に値する美的様相を考え合わせると、価格に見合う価値はあると受け止められる。

「OVE」で興味を引くのが、試乗の意味も含んだ「スムーバー」による自転車ツアーを頻繁に、しかも多彩に企画していることである。現実にオープン以後の1年で17種類のツアーが実施されており、そのなかには「築地の朝市を探訪する」ような「OVE」を起点・終点にする都内編もあれば、「春爛漫の京都を巡るツアー」などの自転車を現地に運んで催す地方編もある。さらには、日中働く人のためにナイトランも企画しており、いずれも手頃な料金で楽しめる。季節の風雅を味わう、あるいは知的好奇心を満たすことと自転車という手段の結びつき。「OVE」が企画し実施するこれらのツアーには、現代の都市生活者の遊びに求める気持ちを刺激するものがある。

日常の都市生活の中で、ゆっくりと、質の高い、しかも美的な心地よさも伴ったスローダウンする時間やシーンを持つことにこそ豊かさがある。限りなく発達していく文明的なモノ、コトや合理性、生産性に追いまくられているからこそ出てきているライフスタイルであり、それは「贅沢なスローライフ」を志向すると呼べるものである。そして、都市の中で乗るにふさわしい快適さと美的様相を究める自転車は、そんなライフスタイルを象徴するモノになっていると言えるのである。





 

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