ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
10.25.2008
「アグ・オーストラリア」に読むトレンドと売れるものの条件

5年前の秋のことであるが、マンハッタンの2つの靴専門店が一風変わったブーツを売り出した。「アグ・オーストラリア (UGG Australia)」というブランド名のシープスキンでできた、かつての時代の極寒地の探険隊を想起させるブーツである。ハリウッド女優のサラ・ジェシカ・パーカーやケイト・ハドソンがこれを履きこなした姿が写真になって雑誌に掲載されたことに着目して仕入れたのであるが、1足100ドルのこのブーツ、店頭に並べるやいなや2千足も売れる超ヒット商品になり、両店の経営者に「商品さえあれば1万足は売れたはず」と言わせるものになったのである。そして翌年、このシープスキンブーツは百貨店の靴売場や靴専門店でこぞって取り上げられ、今では靴の品揃えに不可欠の定番商品になっている。また、ブランド力の高まりと歩調を合わせるように、昨年にはソーホーに直営店を開設している。

「アグ」はブライアン・スミスというオーストラリアのサーファーが1978年にアメリカで起業したものである。彼は当初これをニューヨーク市場に売り込もうとして失敗し、市場導入に苦戦を続けてきたのだが、予想外のところで陽の当たる場所に出ることになった。つまり、カリフォルニアのサーファーたちがこの「アグ」を履き、それが発端になってハリウッドのセレブが注目するものになったのである。シープスキンは「呼吸している」と言われ、それゆえ、室内外を問わず足をドライに、しかも体温の状態に保ってくれ、またマイナス35度の気温の中でも暖かく、27度を超える気温の中でも涼しいというスグレモノなのであるが、その能書き以上に「セレブ発ファッション」という情報性がヒットの鍵になったと言える。この情報性は以後、様々なヒットファッションをもたらす要因になるのだが、「アグ」は記憶に残るその先行事例である。

ソーホーに開店した「アグ」の直営店。
「アグ」の入荷を謳う店。

多少の時間差はあったが、「アグ」は東京でも年を追って人気度を高め、今年は街頭での着こなしを観察していて、ホットなキーアイテムになっていることを痛感する。また、これを品揃えする店のなかには、「UGG入荷しました」といった文言の告知ボードを店頭に出すところもあり、このブランドの持つ購買刺激力を窺い知ることができる。いつの時代にも売れるファッション商品の条件に「持っていない」「過去に体験がない」がある。単純だがこれはマーケッターとして常に頭に入れておくべきことで、「アグ」のようなシープスキンブーツはまさにこの条件を満たしている。

もっとも、「アグ」の人気が高まる理由はそれだけではない。例えば、英国の乗馬用品ブランド「ラベンハム」のキルティングのライディングジャケットがホットアイテムになり、パタゴニアのダウンセーターが注目されるように、「アウトドアでの機能と街での洗練の融合」が先端を行くファッションのトレンドになっていることも見逃せない。街頭の着こなし観察はいろいろなことを教えてくれるものだ。





 

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