ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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6.12.2006
全米を制覇する高質スムージーバー
「ジャンバ・ジュース(Jamba Juice)」
712 7th Avenue, N.Y. ほか多数

振り返ってみると、飲み物に栄養学の面でより身体にいいものを求める動きのなかで、ニューヨークでフレッシュジュースが注目されるようになったのが90年代半ばのことである。当時マンハッタンにも絞り立ての新鮮なジュースをその場で作って飲ませるジュースバーがいくつも登場し、それは飲食における新たな業態開発の事例となった。しかし、類似の業態の台頭は生存をかけて「うちの店ならではの」独自性を求める方向での進化を促す。そしてその独自性を「ジュースを料理する」方向による、より創造性に富んだ飲み物の開発に求めていったのである。そこで登場してきた新語がスムージーであり、スムージーバーはジュースバーの進化版となったのである。ちなみにスムージーの基本的な性格は、複数の果物や野菜にヨーグルトやシャーベット、豆乳などをミックスするといったブレンドの妙にあり、スムージーバーはこのブレンドに創造性を求めて競い合ったのである。

そのスムージーバーの先駆者であると同時に、今や同業態を駆逐し、全米を制覇しつつあるのが、1990年創業の「ジャンバ・ジュース」である。「活動的で健康な人生を送るに必要なすべてのものがひとつになったフルーツ味」を標榜するこのチェーンがスムージーバーとして強力なブランド力を築き上げた要因は数多くある。

1に、美味しさと同時に身体にとって安全であることの徹底追求。世界中に目を向けて、様々な果物、野菜、自然食品を探し求め、それらの材料をもとに独自の味覚を創造しているのだが、それらに人工着色料や保存料を含むことはない。つまりナチュラルであることを貫くことでの信頼感がベースにある。2に、このチェーンが「ブースツ」と呼ぶ、栄養価や身体への効果を高める効果を持つ剤を無料でスムージーに加えることができること。ブーストは「増大」を意味するが、心身にエネルギーをもたらす、消化力を高める、免疫力を高める、筋肉のメインテナンスに効用があるといったぐあいに、独自の工夫によって創造した、それぞれに異なる効用を持つ6種類の『増大剤』を用意している。

従ってこの店での注文の手順は次のようになる。まず、自分の身体への課題やその日の体調を意識しつつ、25種類のスムージーの中からひとつを選ぶ。それぞれのスムージーは3〜4種類のフルーツとビタミン、ミネラルをミックスしたものになっている。次に、能書きを念頭に置きつつ、『増大剤』をひとつ選ぶ。そして、3種類のサイズから好みのものを決める。24オンスが「オリジナル」サイズと呼ばれ、それより大きい「パワー」サイズ、それより小さい「シックスティーン」サイズがある。こうして顧客からすれば自分に合った栄養価の高い飲み物(食事と受け止めることもできる)を摂取できること。ここに価値があり、一度摂取すると、体調の維持管理のためにこれが習慣化していく。飲まないと不安にもなる。それによってこの店と永いつき合いをする常顧客となっていくのである。

3に、接客における質の高さ。店員はただ注文を受けるだけではなく、それぞれのスムージーやブースツの効能について完璧な解説ができ、顧客の相談に応じる能力がある。また、医者にかかっている人や妊婦については、安全を期して、医者に手渡せる完全な材料リストを提供し、摂取の是非、さらにはどれを摂取すべきかを相談するよう積極的に働きかけている。同時に見逃せないのが、顧客の声を進んで聞くこと。そこには開業以来、顧客のコメントに耳を傾けて改善してきたという経緯があり、店頭でのカード、電話、Eメールといった手段を総動員して顧客の声の収集に取り組んでいる。

セルフサービスの飲食業態の形態をとりながら、その形態からは想像のつかないほどの濃密な接客とコンサルティング販売、さらには顧客とのコミュニケーションを実践していること。このことがこのチェーンへの信頼を揺るぎないものにしていると言える。スムージーバーと表現すれば軽い存在に聞こえるが、顧客本位をすべての面で貫き通す「ジャンバ・ジュース」には、永続する商売を考えるうえでの重い教訓がいくつもある。

マンハッタンを見渡してみると、時流に乗っただけのスムージーバーは既にほぼすべて消滅している。「ジャンバ・ジュース」との対比のなかで学ぶのは、どうやったらもっとお客様に喜んでもらえるかという熱い気持ちの持続と、それを商品である飲み物やサービスにきちんと具現化できるシステムを構築することの大切さでる。持続的に成長する企業にはこの言わば骨格になるものがしっかりと出来上がっているものだ。短命に終わるものにはそれがない。時流をとらえる才覚は滑り出しを華々しいものにしても、持続力にはつながらない。これ、すべての業種に普遍化できることではなかろうか。





 

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