ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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7.11.2006
次世代顧客を育成するポロ/ラルフ・ローレンの新業態〜「ラグビー」

ポロ/ラルフ・ローレンが新しく「ラグビー」という名のファッションブランドを立ち上げ、ニューヨーク大学のエリアであるマンハッタンのヴィレッジにも路面店を開設している。これは大学生を中心にするジェネレーションYの男女を対象にするもので、こぢんまりとした店内は、中央にレジとフィッティングルームを配し、これを境界に婦人のゾーン、紳士のゾーンで構成されている。各ゾーンは通りに面してそれぞれエントランスを持って構えを作り、店内で2つのゾーンを往来できるようになっている。

ブランド名の「ラグビー」が示すようにファッションのインスピレーション源になっているのが英国の伝統的な大学スポーツ。そのことは紳士ゾーンの天井に飾ってあるレガッタの艇からも感じ取ることができる。こう書くと、まさにプレッピー・スタイルそのものを想像してしまうのだが(貴族のスポーツや名門大学の学生スポーツはプレッピー・スタイルの重要なエッセンス)、ここに展開されるファッションはそれで片付けられるものではない。確かにプレッピー・スタイルを代表するクラシックアイテムも目につくのだが、全体にタイムレススタイルとは対極の位置にあるトレンディな要素が注入され、それらが互いに融合し、共鳴し、遊び心が感じられるものになっている。

婦人ゾーン側エントランス。

つまり、正統的プレッピー・スタイルを崩して面白くする、そんな創造性が魅力として感じられるのである。そのことは、例えば、トレンディなローライズパンツを取り入れること、あるいはフリルなど、過剰なほどの甘さを感じさせるディテール・デザインなどによくあらわれている。また、プレッピー・スタイルの「清潔さ」を否定する、少々緩んだ、だらしなさを(いわゆるストリートファッションに特有のもの)、マネキンなどの着こなしで強調していることも、崩すことでの遊び心を感じさせるものになっている。また、ラグビーシャツが68ドル、カシミア混のセーターが80ドル前後、ジャケットが200〜350ドルという価格は若者対象ということでは高いが、裕福な大学生からすれば、頻度高く買い物のできる、手の出しやすいものであると言える。こうして、「ラグビー」は裕福な大学生が感性の面も含めて「マイブランド・マイストア」と意識できるものに仕上がっている。

「ラグビー」の誕生の背後には、比較的裕福な私立大学生を顧客に快進撃を続けている「アバクロンビ&フィッチ」への対抗意識があることは間違いないだろうが、この店と来店している顧客を観察していて思うのは、ここにはもうひとつの意図として、「次世代の育成」が意識されているに違いないということだ。言うまでもなく、ポロ/ラルフ・ローレンをトップブランドに押し上げた熱心な支持者はベビーブーマーである。それは今日なお、このブランドにとっての重要な顧客資源であるのだが、彼らの仕事上の人生の先が見えつつあるなかで、この既成の資源だけで企業として成長していくのは難しい。そこで将来のポロ/ラルフ・ローレン・ブランドの顧客につながる次世代顧客の育成を、ジェネレーションYを相手に進めていくという課題認識を持つのはごく当然のことと思えるのである。





 

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